2012年4月27日金曜日

ゼミ大会発表レジュメ


はじめに−報告の流れ−

私達長島専門ゼミナ−ルでは、本年度は「患者満足度」の調査を本大学の地元である国立長野病院(以下長野病院と略)を対象に、調査・研究を重ねてきました。
この調査を始めるきっかけとなったのは、我々のゼミの先生である長島伸一教授が、長野病院の治験審査委員会の外部委員に席をおいていることから、副院長より依頼されたものであり、長野病院も`97年7月に、開院して2周年を迎え、病院自身が院内をより良いものにして行こうという考えから、外部評価を取り入れるために私達長島専門ゼミと、杏林大学保健学部の和田ちひろ助手に調査を依頼したのがその旨であります。
実際に調査を行うにあたっては、和田ちひろ助手が� ��病院内に設置された意見箱に投書された内容から、事前に行ったアンケ−ト調査をもとに、現在通院している患者さん、すでに長野病院での治療をやめた離反患者をリストアップし、その方達を対象に、聞き取り・電話での調査にご協力いただきました。
我々は2・3人ずつ9班に分かれて質問を用意し調査をそれぞれ行い、毎週金曜日のゼミの時間帯に発表・質疑をしてきました。
質問事項とは以下のとうりである。
@氏名・年齢・住所
A長野病院を選んだきっかけ
B医師の対応
C看護婦の対応
D職員の対応
E施設について
Fその他
G総合評価(他の人にも長野病院を薦めますか?)
手術キャンセル患者に対する質問事項
@長野病院に手術の予約をしたか?
Aその後キャンセルしたか?
Bなぜキャン� �ルしたのか?
Cその後手術を受けたのか?
D受けた場合、どこで受けたのか?
E長野病院で受けていない場合、どうしてかその理由を聞く。
F手術を受けなかった場合はその理由を聞く。
Gその他
このようにして長野病院における患者満足度調査を行い、夏の合宿においては、和田ちひろ助手を交えての発表・質疑も行い、今後長野病院がどうすれば施設の改善・患者に対する接遇の変化をより良いものにしていけば良いか、明確なもの打ち出せるように、私達学生なりの考えをまとめ上げました。
この調査の報告書が、これから地域に根付いてゆく長野病院、ならびにこの病院を利用する患者との間により相互理解を生む掛け橋となるべく、一石を投じる物になることを期待する。

              � ��                                                        (濱川 平)
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 1国立長野病院の歴史と現状
  1)2つの前身(上山田病院と東信病院)
 昭和61(1986)年に国が打ち出した国立病院・療養所の統廃合による再編で誕生したのが新国立長野病院である。行財政改革の渦中において、厚生省の指導のもと、統廃合という形で整備・機能強化が図られた新病院であるが、開設までの道程は決して平坦なものではなかったのである。
 統廃合された結果、旧国立長野病院は姿を消すことになった。旧国立長野病院は昭和8(1933)年5月、宇都宮衛戊病院上山田転地療養所として開設されたのがはじまりである。昭和20(1945)年6月に長野陸軍病院上山田分院となり、同年9月に長野陸軍病院となった。さらに、同年12月に国立長野病院として更級地方の医� ��の中核をになうことになった。一方、旧国立東信病院は昭和19年8月に日本医療団上田奨健寮として創設された。昭和22年4月、国立松本療養所上田分院として発足し、同年7月国立長野療養所上田分院となり、昭和25年4月に国立上田療養所となった。昭和29年11月には上田市他9町村病院組合立の伝染病棟を併設し、昭和36年4月にそれらを含めて国立東信病院に転換された。なお、昭和51年4月に付属看護学校を開設している。50余年にわたり上小地域の医療を支えてきた。
 このように地域との結び付きの深い2つの国立病院を統合するにはそれなりの重大な理由がある。戦後の混乱期から奇跡といわれた復興を成し遂げた日本は、高度経済成長時代になると療養環境は向上し、それに伴う人々のニーズは多様化してきている。そ� �中にあって、制約のために国立病院は他の施設に遅れを取る事態になっていたのだ。平成元年に上田市で行われた東信病院の整備促進委員会では緊急医療の誤解から会議が紛糾してしまうなど、地域に動揺が確かに走っていた。 医療は進歩しさらに長野県は高齢化が全国平均より進行し、成人病の増加、高度医療に対する医療体制の不備といった不安は募るばかりであった。この事態に県議会は「統廃合計画に反対の採決」を、2度にわたって否決した。
 その結果県内2箇所で統合推進の機運が引き起こされた。また、地域の人々が団結して新病院設立へと動いた根底には、上田市出身の山極勝三郎博士の存在は大きい※1。人工ガンの研究で世界的に著名な博士の地元に世界に誇れる国立病院を、とその後はまさに、官民一体の運動がおこなわれてきた。
 そして、平成9年7月1日に新国立長野病院は開院する。旧東信病院の敷地内に入院420床の病床、外来には500人に対応可能であり、主な診療機能として@がん治療の中核施設として、高度かつ集学的� �療を行う。A心疾患を中心とする循環器病を対象に高度の救急医療を行う。B 原病、リウマチ等の難病を対象とした専門医療を行う。C周産期医療等にかかる母子医療を行う。Dへき地中核病院としての医療を行う。Eエイズ治療拠点病院F地域災害拠点病院と7項目の診療が核となっている。
 さて今年で開院して2年経過したわけであるが、患者の納得のいく病院に成長しているのだろうか。旧東信病院院長の青木先生は創立50年誌において、未来の病院に対し、こう述べている。「魂である診療機能の充実や運営に関してはこれからの課題であり、広域住民の大きな期待にも応える、高度な専門医療・IC(インフォームドコンセント)の徹底・告知問題・緩和医療など患者中心の医療を目指す」と。また現病院院長の長田先生は国立長野病院開院一周年記念誌において、「真の患者サービスは@職員が日々研 ・研修して質の高い医療・看護を提供すること。A円滑な救急対応、B十分なインフォームドコンセントC患者さんに安心と  満足を与えること」と述べている。さらに多くの改善点もあり運営に関しては未熟であるとも記している。
最後に、地域の総合病院としての存在は決して規模が大きいということでのみ終わって欲しくないというのはそこに住む住民としての切なる思いである。不安な面持ちで病院へ行き、そこでの対応ひとつで患者は良くもなり、一部の医師や看護婦の対応によって悪くもなろう。病院側が全般的には精一杯努力したとして  も、それが空回りしているとはないか。「病は気から」ともいうように互いに信頼できる医療こそ目指して欲しいと思う。
   ※1山極勝三郎については朝日新聞社編「100人の 20世紀」上、1999年、214〜222
    頁参照。
  ※2病院の歴史に関しては以下の二著を参考にした。
    「創立五十周年記念誌・国立東信病院」
    「開院一周年記念誌・国立長野病院」

2)現在の診療課と職員
  新国立長野病院は23の診療課をそなえている。科目は以下の通り。
 内科・精神科・神経内科・呼吸器科・消化器科・循環器科・リウマチ科・小児科・外科・整形外科・形成外科・脳神経外科・心臓血管外科・皮膚科・泌尿器科・産科婦人科・眼科・耳鼻咽喉科・リハビリテーション科・放射線科・歯科(入院患者対応)・麻酔科である。その他特殊外来として内科・ペースメーカー外来・小児科・内分泌外来・腎・神経外来・乳児検診・糖尿病外来・循環器・アレルギー外来・発育外来� �予防接種・泌尿器科・ウロストミー外来・眼科コンタクト外来がある。また、 健康・栄養相談・母親学級・糖尿病教室・減塩教室等各種教室が開かれている。職員は医師45名、看護職204名他、計350名で構成されている。(1999年10月1日現在)

(金井 友和)

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U アンケート調査の概要

私達の調査に先立って、杏林大学保健学部助手和田ちひろさんら、患者サービス向上対策委員会が行ったアンケートによる患者満足度調査を紹介する。
この調査は1998年9月に、外来615名(複数受診115名)、入院257名を対象に行われた。回収率は、外来が90.2%、入院が74.5%であった。

アンケートの質問項目
外来
・国立長野病院の受診の有無
・受診科(内科、精神科、などの中から選択)
・長野病院の受診理由
・受付での場面について、駐車、初診・再診受付の対応、診察までの待ち時間を5段階に評価。
・診療場面について、担当医師の名前を知っているか、担当医師との信頼関係、看護婦の対応を5段階に評価。
・放射線技師、検査技師、理学療法士の対応を5段階に評価� ��
・薬局での場面について、薬剤師の対応、処方箋をもらうまでの待ち時間を5段階に評価。
・会計の場面について、会計職員の対応、会計に呼ばれるまでの待ち時間を5段階に評価。
・期待していたサービスと実際のサービスの差を5段階に評価。
・総合的な満足度、長野病院の推薦意欲、長野病院の評判、通院して感じる満足度を5段階で評価。

入院
・これまでの入院経験の有無。
・長野病院への入院経験の有無。
・今回の入院で手術を受けたか。また、受ける予定があるか。
・入院当日に安心だと思えるような迎え方を職員にされたか。
・長野病院の選択理由。
・朝の場面について、洗面場所の快適さ、看護婦の対応、朝食を5段階に評価。
・治療行為の場面について、点滴時の処置・対 応、ナースコールへの対応を5段階に評価。
・検査・処置・手術の場面について、医師・看護婦・放射線技師などの検査技師の説明と対応を5段階に評価。
・日常生活の場面について、トイレ・風呂の快適さ、昼食、夕食、薬剤師による薬の説明、栄養士による食事指導を5段階に評価。
・回診の場面について、回診の頻度、担当医との信頼関係を5段階に評価。
・夜の場面について、面会時間の設定、同室者との関係、消灯後の環境を5段階に評価。
・期待していたサービスと実際のサービスの差を5段階に評価。
・総合的な満足度、長野病院の推薦意欲、長野病院の評判を5段階で評価。

調査結果 外来
調査対象者615名(うち115名は複数受診)のうち、新来は86名(14%)、再来が456名(74%)、不明が73名(12%)であった。
受付の対応は、7割の人が非常に良い、または良いと応えている。担当医との信頼関係は、6割の人が非常に良い、またはよいと答えている。看護婦の対応なども7割の人が良い、または満足していると答えている。期待していたサービスと実際のサービスの差は、期待をはるかに上回る、期待よりやや上と答えた人が3割、期待と同程度と答えた人が4割いた。期待よりやや下、はるかに下という人は1割に満たず、大多数の患者の期待に応えられていることがうかがえる。
総合満足度は、非常に満足、満足という人が6割で、非常に不満足と答えた人はいなかった。長野病院の推薦意欲は、強く勧める、勧める� ��答えた人が5割、決して勧めない、勧めないという人は1割に満たない。評判は非常に良い、良いと答えた人が5割、非常に悪い、悪いと答えた人は、やはり1割に満たない。

入院
調査対象者257名中、病院に初めて入院する、入院経験はあるが長野病院への入院は初めてという人が約6割いた。手術患者、手術予定患者は5割いた。
入院当日の職員の迎え方は、8割の患者が安心と思えるような迎え方をされたと答えている。しかし、約1割の患者は不安な気持ちで入院生活を始めたと答えている。ある患者は「何を持ってきたらいいのかが入院のしおりを渡されただけでは分からなくて不安だった」と話している。
看護婦の対応については、点滴時の対応に関する評価が最も低いことが明らかになった。点滴終了時にナ� ��スコールで呼んでもなかなか来てくれないという声が目立つ。呼びたくても忙しそうで遠慮してしまう、という声も聞かれる。全体的に見ると、8割近い患者が看護婦の対応に満足していると答えている。
医師に対する評価も良い。8割を超す人が医師の説明や技術、回診頻度に満足し、担当医との関係も良いと答えている。医師のわかりやすい説明と定期的な回診が信頼度を高めているといえる。しかし、図を書いて説明してくれるので分かりやすい、と話す患者がいる一方で、納得するまで説明が欲しい、という患者もいる。
放射線技師、検査技師に対する評価は接する機会のない患者もいるため、無回答が目立った。2割の患者が説明・対応が非常に良い、と答えている。
薬剤師、栄養士と接触している入院患者は全体� �4割ほどである。そのなかで、非常に良いと解答している人は1割弱である。
食事については、朝、昼、夜ともに2割弱の患者が非常に良いと答えている。月に一度、患者代表と栄養士が話し合う場が欲しいと話す患者や塩分やカロリーが計算された病院食のレシピが欲しいという患者もいる。
施設については、洗面所、トイレが非常に良いと答えた患者が4割いた。高齢者と同室になった患者からはトイレの使い方についての苦情もあった。エレベーターがなかなかこない、と話す患者もいる。
面会時間に関して、約7割の患者が良いと答えている。同室者との関係は2割強の患者が非常に良いと回答している。休日の見舞い客、産科のお見舞いはうるさいと話す患者もいる。また、消灯後の環境について、同室者のいびきが うるさいという患者もいた。
期待以上のサービスを受けたと感じている患者は6割弱、期待とほぼ同程度、もしくはやや下回ると答えた患者は4割弱であった。また、総合満足度においては、非常に満足、満足を合わせると8割の患者が長野病院に対して満足していると答えている。
長野病院を強く勧めると答えた患者は2割、勧めると答えた患者5割を合わせると7割の患者は紹介意欲がある。長野病院の評判は、7割の患者が非常に良い、良いと答えている。
                                                                     (山本美登利)
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V.インタビュー調査の概要
 これまでの経過
 99年� ��の専門ゼミのテーマを考える長島教授宛てに、長野病院の武藤正樹副院長から患者満足度調査の依頼が届いた。この病院側からの依頼に興味を持った長島教授は99年度のゼミのテーマを国立長野病院の患者満足度調査に決定した。
 長野病院の調査に当たり長島専門ゼミは、杏林大学保健学部和田ちひろ助手を中心とした患者サービス向上対策委員会が行ったアンケート調査結果を討議し、患者満足度調査への理解を深めることから始めた。その結果から患者の8割は現在の長野病院に満足しており、残りの2割は何らかの不満があるということがわかった。そこで長島ゼミとしては2割の患者から聞き取り調査を行うことにした。ここであらかじめ断っておきたいのは、あえて8割の多数派からではなく、少数派の意見を調査したことだ。 どうすれば国立長野病院が向上するかを考え、肯定的な意見からよりも否定的な意見からの方が長野病院の改善点を見出せるという考えに行きついたからである。病院側としてもこの2割を見過ごすわけにはいかなかったのだろう。
 その後、患者満足度調査の問題点を学び、7つの調査法の中から意見箱による調査を行うことにした。22名いるゼミ生を9のグループに分け、個別調査の準備を進めた。まず一次調査として、6月から病院の意見箱からリストアップした78名に電話でアポイントメントを取り、個別に調査を開始した。アポイントメントを取る段階で、患者さんに不信がられてしまい、聞き取りを断られる事例があったため、急きょ長島教授、和田助手、武藤副院長の連名で、調査依頼の手紙を送ることになった。それからは比 較的スムースにアポイントメントが取れ、調査が進んだ。7月1日には長野病院の開院2周年を記念し、パネルディスカッションが行われた。そこへ、市民や病院関係者ら約100名が集まり、「患者満足」について意見を出し合った。長島ゼミの学生も10数名がそれに参加した。
 9月に行われたゼミの夏合宿までに25件の聞き取り調査が終了した。調査一件ずつ各グループでレジュメを作成し、その中のちょっとした患者の言葉のニュアンスから、現代医療の矛盾や疑問まで様々な問題をゼミ内で検討していった。とても肯定的な事例もあれば、言葉も出ないほどの悲惨な事例もあり、毎回驚きと発見の連続であった。最終的な数字として、意見箱のリストから聞き取り調査をすることができたのは、78名のうち30名であった。患者が通院した� �療科は、心臓血管外科、循環器科、小児科、外科、内科、皮膚科、産科、婦人科、整形外科、脳神経外科、眼科などである。
 10月に入り二次調査として、意見箱に寄せられた患者の調査だけでなく、手術・入院の予約キャンセル患者のリストから聞き取り調査を開始した。今回の患者リストは長野病院に何らかの不安や不満、不信を抱いている患者が、予約キャンセルという形で行動に移した結果と考えることができる。そのためこの調査は、多くが離反患者(何らかの理由で、通院するのを止め、場合によっては、他の病院に通院する患者)であることを予測して行われた。意見箱からリストアップされた患者よりもより重く、批判的な内容がでてくることが予想された。また、今回は、事前に和田助手が直接調査を依頼した。
 離反患者調査のリストからは、全部で34名のうち10名から聞き取り調査を行うことができた。離反患者の診療科は、手術の必要とする診療の多い産科、婦人科と外科に集中した。また、身内の入院、通院体験を調べて発表をした学生もいた。これは長野病院以外の調査であったため、報告書には含まれないが、他の病院との比較という意味でも興味深い発表であった。
 聞き取り調査の総人数は40名ということになった。40名のうち男性が13名、女性が27名ということになる。年齢別に見ると表1に分けられる。
                            表1 対象患者の年齢
世代  30代  40代  50代  60代  70代  80代  90代 *特殊
人数  4名  3名  10名  12名  4名  1名  3名  3名
     *特� ��とは…対象者がなくなられていたため奥さんにお話を伺った事例1件と、対象者が幼児であったため母親にお話を伺った       事例2件の意。

 今回の調査は、患者のプライバシーに踏み込む内容の調査であるため、調査の進行に多くの問題が発生することが予想された。前に述べたように、電話でのアポイントメントを断られた事例や、多忙を理由に充分な時間を取ってもらえなかった事例、電話での聞き取り調査になってしまった事例など、決してスムースに進行したわけではなかった。しかし、インタビューに応じるか悩んだ末に応じ、聞いてもらえてよかったと感謝されるケースもあった。
  インタビュー項目
調査における留意点として 
@病院に対する積極的な(提案型の)批判を掘り起こすことを目的� ��する。
Aそのため、聞き取り対象者に、ゼミと病院とは一線を画している点と、調査協力がゼミ
 論文集での「提言」に反映される点を理解してもらう。
この2点に気をつけて調査を行った。
意見箱の調査では以下の8つの項目で質問が行われた。

(1)性別・世代(何10歳代か)
(2)どんなきっかけで長野病院を選んだのか
(3)医師の対応−インフォームド・コンセントの実態把握、ローテーションの短さに対する不満、他の病院の医師との判断の違い、診療科による評価の差、患者の病院選びの           基準 等  
(4)看護婦の対応−人手不足に対する理解と不満、心のケアに対する要望、患者に対する説明不足と連絡不足、精神的肉体的ケアの説明 等
(5)職員の対応−検査技師� ��受付、薬剤師に対する満足度
(6)施設について−駐車場、病室、待合室と待ち時間、レストラン、エレベータ、テレビ、トイレ、病院食に対する満足度
(7)その他−何か特に気付いた点
(8)総合評価−家族や友人に長野病院を薦めるか
また、離反患者に対しては別の質問項目も作られた。これには、手術・入院のキャンセル理由を聞き、その後手術・入院を受けたのか?という質問を上の満足度調査に含めながら、聞き取りを行った。
                                                                 (加茂下 幹彦)

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W.医師の対応に対する満足度

1 インフォームド・コンセント


演習では、うつ病を防ぐのに役立ちますか?

患者が医師に求めることは、自分の病気を最善の方法で治療できる環境であり、それは肉体的なケアだけでなく、不安を打ち消すための「メンタル的なケアも大きな割合で求めている」(60代、女性)。そして「他の先生に診てもらう気はない」(50代、女性)と言えるくらい「その人と先生との信頼関係が一番大切」(不明、女性)なのだろう。
患者の声としては「説明も詳しいし、検査結果も見せてくれて良い先生だった」(不明、女性)「説明が具体的だったし、良くしてくれた」(60代、女性)「手術前の不安はそうなかったが、眼球のモデルを持ってきてくれて説明をよくしてくれた」(70代、男性)などが聞かれる。病状や治療方法を詳 しく説明することにより、患者の不安を少しでも軽くしようとする姿勢が感じられ、「申し分ない。これ以上望むことはない」(50代、女性)「今の医師をとても気に入っている」(60代、男性)というように、患者から大きな信頼を得ている医師がいる。また「とても穏やかで、患者の言うことを良く聞いてくれる」(60代、女性)医師も、病気に対して不安に思う患者の気持ちを理解し、安心感を与えようとする姿が感じられる。そして何よりも人柄の良さがうかがえる。
積極的にインフォームド・コンセント(十分な説明と患者の納得と同意)を行なっている医師がいる一方で、「病状の説明は、聞けば話してくれる」(40代、女性)「病状に対する説明はあまりしてもらえない」(70代、男性)「黙っていて無口。検査結果を教え� ��い。何も教えず『ハイ退院』という感じ。聞かなければ症状を説明してくれない」(60代、男性)「質問にはしっかり答えてくれる」(60代、女性)(50代、女性)という患者の声もある。これらの声からは、患者から求められれば説明をするが、医師自らが進んで説明をしようとする姿勢は感じられない。「症状を言えばアドバイスをしてくれるが、自分から聞けない人(年配の方など)は可哀相」(40代、女性)である。医師は様々な患者がいることを考慮し、患者側から求められる前に説明をしてほしい。
しかしこれ以上に医師の対応を「良くない」(60代、男性)と思っている患者がいることも、また事実である。「検査や出産方法のことで説明が全然なく、聞いても満足のいく説明が返ってこなかった」(30代、女性)「患者は 必死で対応してほしいと思っているのに、診察中コンピュータをいじっていて患者の話を聞いてくれなかった。患者の質問に対して答えが返ってこない」(50代、女性)「患者の意見を聞こうとしない。頭ごなしに怒鳴りつける」(70代、女性)など横柄な態度に不満の声が聞かれる。本来、患者や家族の不安を取り去る発言をしなければならない医師に「簡単な手術だと聞いたんですが、と尋ねたら『簡単じゃないですよ、傷も大きくなります』」(50代、女性)と言われたり、子供がコンクリートの上に落ち吐いてしまったが、担当の若い医師から「何で吐くのか分からない」などと言われたら、患者の不安は増すばかりである。「病気の者はただでさえ不安なのに、先生の対応でますます不安になる。聞きたいことも恐くて聞けない」� ��50代、女性)という患者もいる。患者にとって医師とは「絶対的な存在なので、冷たい言葉を言われると必要以上に傷つく」(50代、女性)ものである。患者の前で「こんな患者は診たくない」(30代、女性)などという無神経な発言、不安をあおる発言は避けるべきである。
患者側はインフォームド・コンセントを求めている一方で、「医師が『手術しかない』と言ったら、患者は立場的に弱いため『薬で治したい』とは言えない」(50代、男性)ように、患者と医師の関係は対等でなく上下関係であると感じている患者もいる。また「医者というのはこういうもんだ、と言う固定観念があるため、まあ仕方ないという感じ」(60代、男性)や、心のケアを「医師でできる人はいるだろうか。若い人には期待するが、古い人は威張って� �るため期待できない」(60代、女性)という半ばあきらめの声も聞かれる。
患者が自分のからだのことを心配するのは当然であり、治療方法の選択権は本来患者側にあるはずである。しかし「手術をするか、薬で治すか」の選択肢も与えられず説明不足の手術を受けてしまったために、無駄な痛みを味わい、完治するまでにかなりの時間とお金を費やした人もいる。また医師が変わると治療方法も変わり「『どうしてこんなに薬をもらっているんだ』と言われ薬をうんと減らされた」(70代、女性)という患者もいる。患者が聞きたいのは「大丈夫、大丈夫」という言葉ではなく、なぜ薬を減らすのか、どうしてこういう治療が必要なのか、ということである。医師の説明不足は信頼関係を築けないばかりでなく、医師と患者との間に大 きな溝を生じさせる。インフォームド・コンセントができないということは、医師の対応としては致命傷である。
説明の内容だけでなく、説明のタイミングや、誰に対して説明をするのかも大切である。たとえ医師が懸命に説明をしても、それが患者に伝わらなければ意味がない。「一人で説明を聞いても分からなくて困るので、娘にも一緒に聞いてもらっている」(80代、女性)患者がいる一方で「医師が来て往診する際に家族は外で待たされた。もし老人や痴呆症の人だったら説明されても分からないのではないか」(不明、女性)と疑問に感じている人もいる。また「頭がパニックになっているときなど聞き漏らしたり、聞くのを忘れたりするので、医師や看護婦は気を利かせて細かいところの説明をしてもらいたい」(50代、男� ��)というように、患者の心情や状況を考慮した上での説明を求める声もある。
患者は診てもらっているという気持ちから遠慮が生まれ、医師は診てあげているという気持ちから傲慢な態度をとる。医師は毎日のように、生死の境をさまよう患者を見ている。その患者に比べれば、外来の患者など大した病気ではないと思うかもしれない。しかし患者はどんなに軽い症状でも不安を胸に医師の前に座る。そして一刻でも早く肉体的、精神的苦痛から解放してほしいと願っている。患者で医学の知識がある人はほとんどいない。したがって医師がどんなに医学の専門用語を並べて説明したつもりになっていても、それは患者に恐怖心を植えつけるだけで何の説明にもなっていない。図やモデルを使い、いかに上手く患者に伝えることができ るかは、医師の力量にかかっている。
説明が済めばそれで診察が終わりということではない。「納得いかないことは納得できるまでやる」(70代、女性)というように患者から質問を受けることもある。医師は面倒な顔をせず、しっかりと応えてほしい。インフォームド・コンセントとは、医師の十分な説明だけでなく患者の納得と同意が得られて初めて成り立つのである。
「患者の数が医師の数より圧倒的に多く対応しきれていない」(90代、女性)現状の中で患者は「よくやってくれる」(90代、女性)と感じているし、「入院してみて医師の大変さを知った」(50代、男性)り、「忙しくて昼御飯が食べられない」(60代、女性)ことも知っている。だから、聞きたいことがあっても「時間に追われている感じがして、遠慮して� �まう」(40代、女性)のである。しかし、忙しいからという理由で「患者のことは何も考えず、患者の心を無視した治療」(30代、女性)が許されることはない。
これまで医師の改革を求めてきたが、これだけで問題が解決するとは思っていない。医師の数の少なさからくる時間的制約が、インフォームド・コンセントの前に大きく立ちはだかっているからである。非常勤医師が患者に「『もっと医者を増やしたり、週一回の診察ではなくもっと増やしてほしい』と意見を書いてくれ」(90代、女性)と依頼したり、忙しさだけでなく「他にも原因があるかもしれないが、ここにはいたくないと患者にこぼす医師もいる」(60代、女性)くらい、医師としても満足のいく治療、インフォームド・コンセントができる環境ではないのだろう� �国立病院である長野病院は、病院独自の意志で医師の数を決めることはできない。しかし患者の意見を聞く限り、人手不足は否めない。
待ち時間を短くするために一人当りの診察時間を削ると満足な説明もできず、インフォームド・コンセントができていないという不満が出る。十分な説明ができるだけの診察時間をとったら、今度は待ち時間が長すぎるという不満が出てくるだろう。医師にとってもこれはジレンマではないだろうか。
「説明が全くない」(30代、女性)「インフォームド・コンセントが行われていない」(30代、女性)と批判される医師も、説明がないのはインフォームド・コンセントをしたい気持ちはあるが、時間的制約からしたくてもできない、という理由であってほしい。患者の理想は「腕も人柄も良い」� ��70代、女性)医師に巡り逢えることだろう。腕が良ければ、対応や人柄は少々悪くてもいい、という患者もいる。しかし、それはその医師に「絶対の信頼を置いている」(60代、女性)患者でなければ言うことはできない。多くの患者は「悩んで来ているのだから、来たときは真剣にしっかり話を聞いてほしい」(50代、女性)と思っている。不安に思う気持ちも、真剣に話を聞いてくれたり、「優しい言葉をかけられるだけで安心できる」(60代、女性)ものである。患者側から医師の実力を判断することは難しいが、「親切にしてくれた」(50代、男性)など人柄の良さは感じることができる。患者はどんなときでも「心だけは安らかにしてほしい」(50代、女性)と願っている。医師には「謙虚さと熱意」(50代、女性)を持って患者に 接してほしいものである。
(中村 沙絵美)
  2 ローテーションの短さに対する不満

 患者は先生に腕の良さや人柄だけでなく、治療を最後まで診てくれるという責任感も求めている。現に、「先生の入れ代わりが激しいのは困る。完治するまでに長期間かかる病気は同じ先生に診てもらえた方が安心できる」(70代、男性)。「医師自体は悪くないが、半年から一年ですぐ異動になってしまい、リウマチのように一生通わなければならない患者にとっては困る。先生が代わると治療法も変わるため、前の先生の治療で良くなってきてもまた最初からやり直しになる」(60代、女性)。「若い先生が1〜2年で代わる事はよくない。この点では町医者の方が良い」(90代、男性)、という声が聞かれた。ローテーションは若い医師を技術的にも精神的にも成長させる� �めに、いろいろな病院で様々な状況での経験を積ませることが必要なのだろう。
しかし、ただでさえ病気で不安になっているのに、医師がそうコロコロ代わっては、信頼関係が生まれるのはかなり難しい。信頼関係が生まれたとしても、その頃に異動になってはまた新しい医師との関係作りを一からやり直さなければならない。この状況は離反患者を生む原因の1つになる。「外科に通っていたが整形外科に移り、手術する予定だった。しかし、担当医が『12月いっぱいで異動になるため手術に立ち会う事が出来ない』と言い、また外科からのカルテが整形外科の方に来ていないため、何を聞いても『分からない』と答え、次の先生が誰になるのか引継ぐ様子もなかった。その時の責任感のない言葉がとても不安にさせ、違う病院で受� �ることにした」(50代、女性)。
その他にも、「引継ぎを上手にして欲しい」(不明、女性)という意見もあり、医師が患者の病状を把握できておらず、患者は同じ事を繰り返し聞かれ、自分の病気の経過を医師が分かっていないことで治療法に不安を持ってしまう。その点、町医者なら最後まで先生が代わることなく治療してくれるため時間的な事だけを考えると信頼関係がおのずと生まれやすくなる。なぜなら、患者にとってはカルテの記録の積み重ねより、やはり医師との診察の積み重ねの方が断然に安心できるのは言うまでもないからだ。
この問題は医師と患者両方の言い分を無視出来ない。つまり、どちらも理にかなっているのである。患者が医師との精神的なつながりを求めるのは、患者にとって医師は自分の病気を治 してくれるただ一人の人であり、絶対的な存在だからだ。その絶対的な存在である医師を育てるには多くの経験が必要となり、ローテーションがその経験の場を作っている事も確かなのである。実際病院側は「ローテーションは医師教育として必要なため永久になくす事は出来ない。若い医師に信用を寄せることが出来ない患者もいるが、医師は人数不足のためどうしても診察に若い医師を巻き込んでしまう。全ての患者の前面に立たせるということを緩和できれば良いが難しい」と話している。この現状を克服するには、患者の不安をどう拭い去るかが鍵となる。つまり、医師の患者に対する応対の仕方が患者の気持ちを大きく揺らすのだ。
 <医師との信頼関係を結ぶ=自分の病気を安心して任せられる>。ここに患者がローテー� �ョンを嫌がる理由がある。ローテーションの短さは信頼関係を結びづらくするため、自分の病気を安心して任せられることにイコールでつながらないのだ.。今までの先生なら言わなくても病気を目で見て経過を知っていたのに、それが全く知らない先生になったら、ましてや信頼をおいていた先生の後なら余計不満は募るだろう。互いに相手の事を知らない現実が患者に不安を持たせ、医師も患者の納得のいく治療を十分に行えないのだ。
 結局は医師と患者とのインフォームド・コンセントがしっかり行われればある程度の患者の不満は消えるのではないか。患者にとって病気の治療などは未知の世界の技術なため、理解するためには具体的な説明は必須条件である。この具体的な説明を患者が納得するように行う事が大切なのであ る。前述したように、医師に求めるものは腕の良さだけではない。人柄もそうだが治療に対する熱意は患者にとって不安感、不信感を打ち消す大きな力となる。医師の患者に対する対応はローテーションの短さに対する不満を減少させる手段になるのではないだろうか。そのためには、医師同士の引継ぎはしっかり行い、患者が安心して治療を受けられる状態をあらかじめ準備しておかなければならない。

3 他の病院の医師との判断のくい違い

 医師は患者の生命に関わる重大な役目を担っている。患者が医師を絶対的な存在と思うのは人の命を救えるからである。しかし、医師は神様ではない。全ての人間の病気を治せるとは限らない。すばらしい技術をもってしても、人間の死が訪れる事だってある。そして、それは患者自身も患者の身内も当然に承知している。しかし、なぜ患者が死ななければならないか、これがはっきりしていなければ身内は納得しないだろう。つまり、医療ミスがあったかどうかである。これから挙げる事例は治療に入る前の段階ではあるが、もしかしたらミスにつながっていたかもしれないケースである。
「シコリができ、整形外科で『患部が悪い時は大きく摘出しなければならない。その時は神経に傷が� ��くため車椅子や杖を突くなど、生活に支障が出る恐れがある』と伝えられ、とても不安になった。そんな時に甥が『信州大学病院は5,6人のグループの先生が話しをして手術する』と言ったので、安心できそうで信州大学病院に行った。検査を受けるとそこの医師は『車椅子、杖が必要になる事は有り得ない』と判断した。この結果を受けて、長野病院での検査をキャンセルすることにした」(50代、女性)。
他にも、長野病院で手術を受ける予定だった患者は「長野病院だと胸を開くことになるが、長野市民病院だと切らないで数箇所に穴を開けるだけですむということで、長野市民病院で手術を受けた」(不明、女性)、「国立長野病院を紹介して頂いた病院では簡単な手術と聞いていたのに、外科の先生に聞いたら、『簡単じ� ��ないですよ、胸の骨たちわってやるのですから傷も大きくなります』と言われ、手術をキャンセルした」(50代、女性)。
これらは、病院によって医師の診断が違う事をあらわしている。もしかしたら技術的な面や担当する医師がいないなど治療法の違いはいろいろと考えられるが、明らかに1番目、3番目の患者の話は診察での判断が異なっている。なぜ同じ医師なのに病院によってこのような判断にずれがおきるのか。医師として、患者のこれからの人生を背負っている以上、間違いは許されない。病院とはそれくらいシビアな世界であり、患者が医師を疑うような、あるいは信じられないような診察はすぐに離反患者を作ってしまう。地域病院としての位置を築くためには離反患者からの悪い噂は病院が地域に根差すことを大きく� �むものになる。
どうすれば、医師の判断のくい違いがなくなるか。先にも出た患者の話で、「信大病院は医師が5〜6人のグループになり、話し合いを設けてからの手術となる。診察毎に前回のカルテを見ているし、他の科との連携もとれている。1日に何回も回診に来てくれるし、チームの先生方が全員交代で診てくれる。ガーゼ、消毒なども先生がしてくれた」(50代、女性)。このように、慎重に慎重を重ねている病院もある。医師がチームを組むとなると、動きづらかったりするかもしれない。しかし、それだけ診断に正確さが伴う。医師の判断のくい違いを避けるためにも良く、また患者の安心感を得られるという面でも優れている方法である。
長野病院も医師がグループを組む体制を整形外科、循環器科が取り入れており、 心臓血管外科についてはグループ体制と主治医制の半々をとっている。ただ、医師の人数が少ないためどうしても患者の目に届きにくい。グループでは手術の話し合い、主治医では検討会とどれも表に出てこないのである。そうなるとやはり患者が見るのは診察であるため、医師1人1人の患者に対する対応と責任に頼らざるを得ない。患者の病気を良く把握して丁寧な診察を心掛けるとしかいえないだろう。もちろん、多くの医師がそのように診察をしている事は満足している患者が多い事でよくわかっている。慎重を重ね患者に見えない所での医師の連携活動の成果だろう。しかし、その中にわずかであれ、医師の診断のくい違いにより離反している患者もいるのである。
また、医師の判断だけでなく、患者に対する説明の仕方にも問 題を感じている患者がいる。3番目の患者さんは「病気でただでさえ不安になっているのに、先生の対応でますます不安になる」と言うように、医師の治療の説明に使われている言葉はどう考えても患者を恐がらせるものである。手術をする時点で患者はかなり不安になっているのにその不安を増幅させるようなことを言っては、信頼など築けるわけがない。患者に対する細かい気配りが必要な場面をしっかりと感じ取り、安心させるような言葉をかけてあげることが医師としての1つの役目ではないだろうか。精神面のケアは看護婦にも必要だろうが、看護婦以上に医師の言葉は強いのである。大きな励みにもなり、不安のどん底に突き落とされもするのである。
 医師の診断の重大さは生命に関わる事である。他の病院の医師と診断が 違うのを患者が不安に思うのは当然である。そして、なぜその時点で長野病院を辞めるかは、やはり医師に対しての信頼を寄せる事が出来なかったからだろう。もちろん、長野病院の今の体制、つまり検討会やグループでの話し合いを通しての診察を行うことで、一部の患者を除くほとんどの患者が医師を信頼し満足している。ただ、その不満を持つ一部の患者に信頼を持たせるような医師となるために、責任を今まで以上に感じて欲しいし、地域の人に期待されている病院である事も忘れないで欲しい。

4 診療科による評価の差

 アンケート結果による診療科の評価は満足度が高い順で、消化器科、心臓血管外科、産科、呼吸器科、循環器科、耳鼻咽喉科、放射線科、整形外科、外科、形成外科、リハビリテーション科、眼� �、小児科、婦人科、内科という結果が出ている。
アンケートとは別に聞き取り調査を行っていくと、全般的に良い印象ではあるが全面的に良いわけではなかった。具体的な診療科別の評価は次の通りである。
『心臓血管外科』は、良いという返答が多く返ってきた。「絶対の信頼を置いている」(60代、女性)、「言いたい事が言える」(50代、女性)、「腕も人柄も良く、心臓血管外科は薦められる」(70代、女性)と良い評判が多かった。『小児科』は「先生が優しいし、説明もよくしてくれるので良い」(30代、女性)。『整形外科』は「先生が親切で個性的。実力は判断出来ないが、謙虚で熱意のある先生で良かった」(50代、女性)。『脳神経外科』は「信大の脳外科の先生は穏やかで患者の言う事を聞いてくれる。自分の� ��気も最後まで診てもらうつもりだ」(60代、女性)。『内科』は、「先生の説明が具体的だったし、良くしてくれた。先生はみんなに信頼されている」(60代、女性)と良い印象を持たれている診療科がある。
しかし一方であまり良く思われていない診療科があるのも事実である。調査によって出た診療科は『産科』『婦人科』『循環器科』『外科』『皮膚科』『脳神経外科』などがある。しかし,誤解のないようにここで断りを入れさせてもらうと、これらの診療科が多くの人に支持を持たれていないというわけでなく、不満を持つ患者少数の意見であることを承知して欲しい。つまり、先に上げた診療科に対する患者の意見として、例えば、『外科』には「親切で良かった」(60代、女性)、『内科』は『どの先生も良く診てくれる 』(80代、女性)など良い印象を持っている患者はもちろんいる。このように、国立長野病院は設備、サービス供に満足している患者は大多数いるのだ。しかし、どんなに少数の不満でもこれを切り捨ててはさらに良い病院に伸びることはないだろう。地域に根差す病院を目指し、そうあって欲しいと願われているのだから、少しの不満も住民の声である事を忘れてはいけない。国立長野病院が地域に溶け込み、病院として成長するためと思って、前向きに受け止めて欲しい。
では、具体的に評判の悪かった診療科をあげてみると、まず『外科』である。「治療の説明が何もなく、先生は話を聞いてくれない。患者の事を考えてくれず、患者の心を無視した治療を行う。医者同士の連絡がない」(30代、女性)、「聞きたい事も恐くて聞� ��ないし、説明もなかった。先生の対応でますます不安になる」(50代、女性)、「聞けば説明をしてくれるが、頭がパニックになっている時など聞き漏らしたり、聞くのを忘れたりするので、医師や看護婦は気を利かせて細かい所の説明をしてもらいたい」(50代、男性)とある。『循環器科』は「カルテを見ない、看護婦を連れて歩かない、患者の意見を聞こうとしない、頭ごなしに怒鳴りつけられて4回で嫌になった」(70代、女性)。
『婦人科』は「若い先生が診察中、コンピュータをいじっていて、患者の話を聞いてくれなかった。質問に対しても答えが返ってこない。だから、1回で病院を変えた」(50代、女性)。『産科』は「医師の回診が少なすぎる。1週間来ない時もあったし、来ても部屋をちょっと覗く程度だった。また� ��検査や出産方法についての説明が全然なく、聞いても満足のいく説明が返ってこなかった」(30代、女性)。『脳神経外科』は「黙っていて無口。検査結果を教えない。何も教えず、『ハイ、退院』という感じ。聞かなければ、症状の説明をしてくれない」(60代、男性)。『皮膚科』は「患者の数が医師より圧倒的に多く、対応しきれていない。しかし、医師もがんばっている」(90代、女性)、「信大から先生が来ているが、長野病院専属の医師が欲しい」(40代、女性)。その他に医師の人数に対する意見として、『整形外科』では「医師の人数が少ない。リウマチ科担当の医師が整形外科の他の患者も診ている」(60代、男性)、「以前は木曜日だけが休みだったのに、今は月・水・金の3日間しかやっていない。そうでなくても混ん でいる科なので、先生を増やしたりして毎日でもやって欲しい」(50代、女性)という不満を持つ患者もいる。
ある診療科に対して不満を持つ患者と良い印象を持っている患者の意見を見比べると、何によって評価の判断が成されているかが良く分かる。それは医師の患者に対する対応である。不満を持っている患者はみんな医師の横柄な態度や、病気や治療の説明不足といった答えばかりだった。患者と医師の間でインフォームド・コンセントが成り立っていない事が良く分かる。医師は患者に説明したつもりでも、医学の知識の全くない患者にとってみればちょっと専門用語が入っただけでもう分からなくなってしまう。患者が理解しやすいように例えば図を用いた視覚的な説明など工夫することで、理解度はかなり違ってくるので はないだろうか。
 この診療科の評価の違いは,腕の良さというよりも医師の患者への対応の仕方によって、大きな差を生む事が分かる。心配で不安になりながら患者は病院へ来る。だから、患者は自分がどんな病気で、あるいはどんな治療をするのかなど、とても恐くて聞けないことは十分に考えられる。このような患者を不安でいっぱいにさせるか、反対に安心して任せられると思わせるかは医師の一言である。医師の言葉が患者にとってどれくらい重くとらえられているかを良く自覚して診察を行って欲しい。患者を気遣う気持ちを持って診察を行うことが信頼関係を築く第1歩なのではないだろうか。そうすることで、ローテーションの短さをカバーする最大の手段ともなりうるだろう。診療科の看板を背負っているのは医師で� ��り、その看板名の評判はやはり医師に関わってくる。
                               (間 麻美)

 5 患者の病院選びの基準


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患者が何を基準に長野病院を選んでいるのかを見てみたい。
まず最初に病院の名前や規模ではなく、担当の医師の名前で病院をで選んでいるケースである。「以前、心臓関係の病気で東長野病院に通っていた。その時の担当の先生が国立長野病院ができて異動になったため通うことになった」(60代、男性)(60代、女性)「以前東長野病院に通っていて、主治医についてきた」(60代、女性)(50代、女性)「以前東長野病院に通っていたが、合併にともない主治医の先生が移ったため」(50代、女性)長野病院を選んだ患者がいる。たとえ医師が異動になったとしても信頼できる医師を頼り、少々遠くてもその医師のもとに通い続けている。これらの声は「先� ��の一番最初の患者(13年ほど前から)で、この病気を最初から診てもらっている」(50代、女性)というように、長期間もしくは一生通院しなければならない病気を持った人に多いようだ。「『死』はいつも恐れていて頭から離れることはない。寿命は決まっているが、自分は死ぬまで主治医のいる病院に通い続ける」(60代、女性)(50代、女性)「主治医が異動になったらその病院に通う」(60代、男性)というように、主治医を信頼しているだけに、異動になったら長野病院から離反する可能性が多分にある患者でもある。その他に「5年前に手術をした時の先生がいるから」(60代、女性)という患者もいる。担当の医師は「みんなに信頼されているからとても視察が混む」(60代、女性)ように、医師の名前で病院を選べば信頼度の 高い医師には自然と患者が集まる。
しかし裏を返せば、医師への不信感はその病院から患者を遠ざける結果となる。看護婦の対応が悪く病院を変えたという話しは聞かないが、医師の対応の悪さ、責任感のない発言に不信感を募らせ、長野病院を離反した患者も少なからずいる。手術をしたが病状が改善されるどころか悪化していると「今までの経緯を母親とともに話すと、先生は『同僚の悪口を言うな』『いい年して母親がついてくるな』」(30代、女性)など暴言ともとれる発言を患者に浴びせている。結局この患者は病気が完治しないまま別の医師を頼り長野病院を離反している。他にも外科から整形外科に移った時に、整形外科の医師は「『自分は12月いっぱいで異動になるので手術に立ち会うことはできない』と言い、外科か� ��のカルテが整形のほうに来ていないために何を聞いても『分からない』と答え、次の先生が誰になるのか引き継ぐ様子もなかった。そのときの責任感のない『分からない』という言葉がとても不安にさせた」(50代、女性)。この患者もその後、別の病院で手術を受けている。
医師とは病院の顔であり各診療科の看板を背負い、そして病院の名前も背負っている。一度失ってしまった信頼を取り戻すのはそう簡単なことではない。しかし、たとえ少数だとしても離反患者の意見をくみあげ、対応を反省するとともに改善策を考じ、信頼回復に努めてほしい。
患者には医師を選ぶ権利があり、不信感を抱けば離反もするし、信頼関係が築ければその医師についていくこともある。東信病院時代から通っていたが「長野病院になってか� �来た医師が良くない。現在は東信病院時代の主治医がいる病院に通院している」(70代、女性)という患者がいる。この患者こそ医師の名前によって病院を選んでいる良い例ではないだろうか。
次に長野病院を紹介された、薦められた、というケースがある。これには「小児科の設備の整った総合病院が良いと言われ、長野病院を紹介された」(30代、女性)「開業医から紹介された」(70代、男性)(50代、男性)(60代、女性)など、他の病院、医院から紹介される場合と「弟に東信病院を薦められて通い始めた」(90代、男性)というように、家族などから薦められ通い始める場合もある。
病院に「家が近い」(70代、女性)ことも、病院を選ぶ一つの基準だろう。体調がすぐれないときの長時間の移動は苦痛である。「松本に行 くか佐久に行くか迷ったが、近くて通い良いほうがいい」(不明、女性)「篠ノ井の厚生連や佐久総合病院は遠くて通いきれない」(60代、女性)など、本人や家族の負担を考えると「地元にあるのは良いこと」(不明、女性)である。「佐久総合病院など遠くの病院に行く人もいるが、近いのが一番だと思う。医師を信頼して病気を治したほうがいいと思う」(不明、女性)という声もある。
比較的多いのが「総合病院という安心感」(60代、女性)から長野病院を選んだ患者である。「多くの科があるので安心感があり、まかせられる」(40代、女性)「総合病院は1つの病気をいろいろな科で診てもらえるし、質(医師、施設など)の良いサービスが受けられる」(40代、男性)など多くの診療科があるということは、安心感につな がる。しかし「いろいろな科があるというメリットが、同じ病院内にもかかわらず紹介状を書いているというデメリット」(50代、男性)になっていると指摘する患者もいる。「病院の規模が大きくなればなるほど小回りが利かなくなる」(50代、男性)ものである。
病院の規模が大きくなれば、それなりのメリットもある。「新しく長野病院になったので、設備なども充実したのではないかと思い通うようになった」(40代、女性)「規模(医療機器、専門医)の大きい長野病院を選んだ」(40代、男性)「一番は建物がよい」(50代、女性)など施設や設備の良さを望むことができる。「こんなに設備が整っている病院は他にはない」(60代、女性)という患者もいる。一方、施設の良さは認めているものの病院が新しいだけに、「外� �は立派だが中身のあるものに」(不明、女性)「新しくてきれい。まだ中身は充実していないが」(60代、男性)など「病院自体が熟練」(70代、男性)することを望む声もある。
いずれにしても国立病院、総合病院という「大病院のネームバリュー」(90代、女性)は大きい。「行ったことのない小さな町医者は不安」(90代、女性)であり、「長野病院に行けば確実に安心できる」(90代、女性)という図式が患者の中で出来上がっているのではないだろうか。
その他、「夜間救急をしている長野病院へ行った」(30代、女性)「救急車で運ばれた」(60代、男性)など時間外や緊急時にも対応してくれる病院であることも患者にとっては安心できる。「東信病院時代から通っている」(90代、男性)(70代、男性)(80代、女性)( 60代、女性)「東信病院時代に看護学生として勉強していた」(30代、女性)など、病院選びの基準は様々であった。

 6 その他

患者が医師を選べないことへの不満もある。「今までは患者が先生を選べた。先生の名前の書かれた診察券入れがあり、好きな先生の方に診察券を入れていた。でも、医長は長く病院にいるため患者さんが集中してしまい、もう一人の先生と片寄りができてしまった。だから今度からは、一人ずつ交代でやるようになり、患者から先生を選ぶことが出来なくなった」(70代、男性)というように、担当医制ではなくなってしまった。「患者にも先生を選ぶ権利はあると思うのでこれは不満である」(70代、男性)。また「1999年7月7日病院から『循環器系の患者の皆さんへ、6月30日に小澤医師が異動したため、佐々木医師と米沢医師に患者を振り分けます。今週、来週、再来週の予約は取り消しです。7月1日長野病院』とい� �内容の葉書が届いた。患者の意向とは関係なく先生を決めるってこと、患者が先生を選べないなんておかしい」(不明、女性)と不満をもらす患者もいる。病院が何気なく使う言葉も、患者側からすれば「『振り分けます』なんて失礼」(不明、女性)な発言である。
次に医師の人数や診察日数の増加を望む声がある。「週1回の診察日を2回に増やしたり、医師の人数を増やさなければ、病院内がパンクしてしまう」(90代、女性)「皮膚科や耳鼻科は週2回に増えたとはいえ、まだ少ない」(60代、女性)「皮膚科の診察日を週3〜4日に増やしてほしい」(40代、女性)「整形外科は以前は木曜日だけが休みだったのに、今は月・水・金の3日間しかやっていない。そうでなくても混んでいる科なので、先生を増やしたり、毎日で� ��やってほしい」(50代、女性)など「患者が多い割に医師が少ない」(60代、女性)と感じたり、皮膚科は「現在は火曜日と金曜日の週2日なので、急に診てもらいたくなってもその日まで待たないといけない」(40代、女性)という面で不便に思っている患者がいる。
入院中の回診についても見てみたい。「熱心な先生とそうでない先生がいる」(60代、男性)と指摘されるように、患者の意見も様々である。「日曜日も回診してくれて良い」(60代、女性)「手術後も病室を訪ねてきてくれて、よく診てくれた」(70代、男性)。また「もう長くないと家族にも分かるような時期に、毎日欠かさずに(休みの日にも)顔を見せてくれた。学会で3日間出張のときがあったが、そのときも出発する朝と、帰ってきた日の夕方に顔を見せて くれた」(50代、女性)と熱意のある医師に感謝の声が聞かれる。一方で「入院中の回診が少なすぎる。1週間来ない時もあったし、来ても部屋をちょっと覗く程度だった。看護婦や助産婦に『先生が何も言ってくれないし、あまり見に来ない』と相談しても、結局先生は来なかった」(30代、女性)「声はかけてくれるものの、1回も診てくれなかった」(30代、女性)など不満の声もある。また回診の時間についても「特にズレもなくて良かった」(40代、男性)「回診の時間も毎日同じなので良い」(60代、女性)という声がある一方で「回診はいつも同じ順番で、遅い人は常に遅くなる。人数や診察の時間もばらばらだからいつ来るか分からず、食事の最中だったりするときもある。だから、回診の順番を何日かおきで逆にするなどし て欲しい」(50代、男性)というように、工夫を求める声もある。
患者の一つの病気を一人の医師に診てもらえるとは限らない。「行く度に違う先生なので不安」(40代、女性)に思う患者もいる。医師が「カルテを見ない」(70代、女性)「カルテが通じているか心配」(不明、女性)「医者同士の連絡がない」(30代、女性)など引き継ぎに不安を感じている。曜日ごと医師が違ったり、ローテーションの短さから医師が変わってしまうのはある程度仕方がないが、もっと引き継ぎ上手であってほしい。「カルテがあるので大丈夫」(40代、女性)だと思っていても、本音は「皮膚科は信大から先生が来ているが、長野病院専属の医師がほしい。同じ先生に診てもらえれば安心できる」(40代、女性)のである。
長野病院になり「東 信病院の頃より専門医が増えて良い」(70代、男性)という声がある。しかし「リウマチ科の看板は出ているが、実際は整形外科。リウマチ科担当の医師が整形外科の他の患者も診ている」(60代、女性)「新しくなりパンフレットにもリウマチ科ができたとあったので、喜んで行ったらないと言われガッカリ」(不明、女性)と残念がる患者もいる。

新しく長野病院になって2年が経った。患者の評価は「東信病院の頃のほうが良かった」(70代、男性)(60代、女性)「東信病院と比べてあまり変わっていない」(不明、女性)「良くなった」など様々である。医師の対応についても同様で「どの先生も良く診てくれる」(80代、女性)「先生も良い人がたくさんいる」(50代、女性)という良い意見から「良くも悪くもなく普通」( 50代、男性)「悪くもなかったが特別良くもない」(60代、男性)「どこの病院もいっしょ」(40代、女性)、そして「良くない」(60代、男性)まで患者の評価は様々であった。
今まで医師の対応や医師を取り巻く環境について書いてきた。今回の調査では、比較的不満を持っていると思われる患者のリストを用いたため、今の状況に「満足している」(40代、女性他)「良い」(60代、男性他)という意見よりも、「不満である」(70代、男性)「強く改善を望む」(70代、男性)など患者がもっとこうしてほしい、と願う意見の方が圧倒的に多かった。患者が医師や病院の改革を望んでいるということは、これからの長野病院への期待度を表わしているのではないだろうか。
実際「地域の中でベッド数の多い大きな病院が欲しいと� �う地域の運動によって長野病院は出来たから、期待していたし喜ばしいことだ」(70代、男性)という声がある。また「病院を育てる(良くしていく)のは、私たち(地域の人々)だ」(90代、女性)という声もある。インフォームド・コンセントに妥協はしたくないが、待ち時間の長さなどは患者側もある程度我慢しなければならない。医師、患者ともにそれぞれの言い分はあるだろうが、いがみ合っているだけでは何の進歩もない。お互いの置かれている状況を理解することも大切だろう。
「祖父母と同居しているのもあって安心してかかれる病院であって欲しい。人の噂で佐久や篠ノ井の厚生連、日赤、信大等がいいと聞くがいずれも遠いので、近くの信頼できる病院であって欲しい」(不明、女性)と、地域の病院に期待を寄せ ている。「上田には個人病院は多いが公的な病院は少ない。上田には国立病院が1つしかなく『医療の谷間』と言われている」(60代、女性)。それだけに地域の人々は、これからの長野病院が地域に根ざした病院として発展していくことを大いに期待し、願っている。
(中村 沙絵美)

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  X 看護婦の対応にたいする満足度

 看護婦は患者にとって最も身近な存在である。そのため患者に及ぼす影響力は非常に強い。体も心も弱っている患者は、看護婦の些細な一言で安心し、又、落ち込んだりする。そのため看護婦は言葉に細心の注意を払わなければならない。患者は病院の中で常に同じ環境で過ごし、同じ人間と接しているので、看護婦の一瞬の行動にも目が向いてしまう。それが患者にとって、不快感を覚えさせられるものであったり、心から安らぎを覚えるものであったりするのだ。「仕事をこつこつやる人や、黙々とやる人は、患者から見てとて
も良く映る。患者は看護婦の良いところも悪いところも見ている」(50代、男性)。「患者を怒る看護婦がいるが、怒るのは患者のことを考えているからであ り、芯はいい人なのだと思う」(70代、女性)という言葉にあるように、患者は看護婦に[間違いのない仕事]と共に母親の様なやさしさを求めているのである。

(1)人手不足にたいする理解と不満
 我々の調査した患者の看護婦への共通意見として、<人手不足>という点が挙げられた。
 「ある程度の教育はできている。悪いところは人手不足。呼んでも来ないため、隣の患者や見舞いの人を使った事もあった。お母さんのときに、おむつなどは待っていられないので、付き添いの者がやった。すぐの対応ができていなかった。完全看護 (※1)と言っているが、付き添いがいないとダメ」(60代、男性)。「とても努力しているが、医師同様大変忙しそう。もっと人数を増やしてほしい」(90代、女性)。「看護婦は忙しすぎる。人数が足りない。老人の数が増えたこともあって患者への看護と介護(医師の手伝いと入浴の手伝い、着替え、下の世話などの生活面の介護など)をやっている」(40代、男性)。「忙しく動いていて『病院に今看護婦が二人しかいない』と言っていた時もあって、やはり看護婦は少ないと思った。だから忙しい時は用事を頼みにくく、つい遠慮してしまうことがある」(30代、女性)。これらの意見から解るように、看護婦の人手不足による患者への負担は非常に大きなものになっている。これでは唯でさえ病気や怪我により身も心も弱っている� ��者へムチを打っている様なものである。この問題をまず解決しなければ、患者への本当の看護と安らぎを与えることはできないのではないか。基準看護は実現しないのではないだろうか。
  ※1この言葉は造語である。これを病院側は基準看護という言葉で表現している。
 看護婦に関する問題のほとんどがこの人手不足からきている。人数が少ないということは、看護婦一人に与えられる仕事の量は膨大なものになる。それに伴い「一人一人に掛かる時間が少ないので、患者の心のケアをしてあげる時間がほとんど無く、不安になってしまう(実際に経験している)」(40代、男性)。ストレスも溜まり、「忙しいので患者に対してヒステリックになる人もいる」(40代、男性)という現象が起こってしまうのだ。看護婦の人数のことを病院に言うのは酷だと思うが、患者は常にその不満を胸に抱いているのだということを念頭に置き、患者に接して欲しいのである。
 厚生省の定めている看護婦の人数と、病院側が必要と する人数には数量差があると思う。国立長野病院では、患者2.5人に対して看護婦1人という人員構成なのだが、それは入院患者に対してであって、実際はそれに通院患者が加わる。その影響により看護婦が過重負担となり、仕事にも何らかの支障が起きてくる。これには、厚生省の国立病院への規定内容の段階から見直す必要がある。ただでさえ高齢者の増加が著しい中、病院が忙しくなっているにも関わらず、人員及びベッド数の規定変更等の政策が行われていないのは問題だ。早期解決を願いたい。

 (2)心のケアにたいする要望

 患者の身体的ケアは当然のことであるが、最も患者に必要なのは<精神的ケア>である。[病は気から]という言葉にあるように、患者は肉体的ダメ−ジよりも精神的ダメ−ジの方が強い� ��らである。たとえば「出産は普通分娩で行ったが、逆子で難産であった。子供は仮死状態になり、保育器に入った。その時、看護婦と女医が話をしていて、『私なら絶対切って産む』と言っていて自分も帝王切開にしなかった事を後悔した。でも、患者の前でそのような話はするべきではないと思う」(30代、女性)という意見があった。こうした発言をするのは、患者の心中を全く無視した人間のすることであり、看護婦だからと言う訳ではなく、人として有るまじき行為である。
 患者は常に不安な状態にあり、看護婦の些細な一言で安心したり動揺したりする。「基本的には良いが、一度他人の点滴を間違えて打たれそうになった時、『点滴はどれも同じ』というような事を言われ不安になった。ナ−スセンタ−が病室から近く� ��自分と似た名前の人が入院していて、看護婦の『この二人間違いやすいよね』という会話が聞こえて、自分も気を付けようと思った」(60代、女性)というように、たまたまその点滴が同じだったのかもしれないが、あってはならない会話である。ミスはミスで認め、しっかりとした説明が必要であると思う。
 「妊娠していておなかが大きかった時、怪我をした長男を連れて、慌てて夜病院に行った。看護婦さんに『夜は命に関わる人達が大勢来るので昼間来てください』と言われ、かなりショックを受けた。又、この時、小児科が5階にあるのでエレベ−タ−に乗って上がり、ドアが開いたら長男がワ−と走り出しそれを見て看護婦は『騒いだら承知しないよ』と怒鳴った」(30代、女性)。「新しく入った看護婦はいいが、長く� �めている看護婦は患者に対して言い方がきつかったり、見下す態度をとるときがある」(50代、男性)。これらの言葉や態度の中には思いやりというものが感じられない。相手の立場になって考えれば、自ずと問題点は見えてくるのではないだろうか。
 「退院するためにリハビリをした。看護婦さんが車椅子で迎えに来るのが遅く、対応も悪かった。看護婦さんは、よい人とつんけんしている人がいる。患者はやさしい言葉を掛けてもらうとうれしい。看護婦さんは優しく明るく、相手のことを考えて患者に接して欲しい」(不明、女性)と患者は看護婦に期待している。確かに体調などにより気分の善し悪しがあるのかもしれないが、それを患者にぶつけるというのはどうだろうか。全ての看護婦がそうではないと思うが、現実に� �れらの要望が挙げられている訳なのだから、もう一度初心に返り、看護婦になろうとした時の自分を是非思い出して欲しい。 「咳が止まらなかった時、看護婦さんが水を出してくれた。このような心遣いがうれしかった」(30代、女性)のように、看護婦の優しさを患者はいつまでも忘れないものだ。患者の心の中を看護婦さんの優しさで一杯にして、病で弱っている患者を救って欲しい。それが看護婦に対する患者の最大の願いである。

 (3)患者に対する説明不足と連絡不足

 患者に病気の説明をするのは医師の役目だが、「口から内視鏡を入れて検査する為に麻酔をした。その後しばらくは水を飲んだり動いたりしてはいけなかった様だが、その説明がされず、内視鏡を入れて口の中が気持ち悪かったので、水を飲んでしまい戻してしまった。最初に細かい説明が欲しかった」(60代、女性)。この程度の説明は医師でなくても十分にすることが� ��来るはずである。患者に対する説明は丁寧に一つ一つしなければ、知識のない患者は看護婦達の想像の付かない行動に出てしまう恐れがある。それが後になって取り返しのつかない事になり得る可能性は、十分に考えられる。事故が起こってからではどうすることも出来ないのだ。
 「看護婦は補佐的な仕事しかしていない。アドバイスや何か一言欲しい」(60代、男性)と、多くの患者は一抹の不安を抱いている。つまり、不安故に看護婦のアドバイスが欲しいのだ。看護婦の一言には、それだけの重みと癒しの力が備わっているのである。
 また、連絡不足という点から「看護婦は一日三交替しているので、薬を飲んだのか、食事の量など次の人にきちんと伝わらない場合もあった」(40代、男性)。「火災報知機の誤作動の時 、なにも放送がなくて不安だった」(90代、男性)という問題も発生している。
 これらを解決するためには、交替の際に看護婦の間で確実に引き継ぎがなされているのか、連携は取れているのか、それらを明確にすることが大切である。なぜなら患者が動揺する瞬間がそこに生じてしまうからである。その動揺が不信感に変わり、不満が募って行くのだ。一度不満を感じてしまった人から、それらを取り除くことは難しい。患者が病院生活を快適に過ごし、病を克服し気持ちよく退院できるような配慮が常に必要である。
 看護婦の仕事は、非常に忙しく精神的にもきついものなので、100%ミスなくこなすというのは難しいことだ。しかし看護婦の仕事というのは1%のミスがあっても許されないものなのだから、責任を持っ� ��行動してもらいたい。そこには<人の命>が関わってくるからである。そのために多少言い方がきつくなってしまったり、事務的な対処になってしまうことがあったとしても、思いやりだけは持ち続けて欲しい。
 医師の補佐という立場で考え行動するのではなく、看護婦も主体性を発揮するべきだと思う。それがこれからの病院の発展を考える上での必須条件となり得るだろう。

 (4)精神的肉体的ケアの実例

 「上田の花火大会の時、花火を見たいが自分たちの部屋では見られないので、同室の三人で南棟の食堂へ行って見ていた。その時看護婦さんが空いている病室に席を作ってくれた」(不明、女性)。これは医療には関係がないが、この気遣いにより、さぞ患者は楽しく花火を見物することが出来ただろう。こ� ��患者の言葉にはあふれんばかりの感謝の気持ちが伝わってくる。「カテ−テル検査(※2)で一日入院した時、十数年前の手術の時にいた看護婦さんが婦長さんをしていて、声をかけに来てくれた。別に手術をしなくても良かったのだけれども、手術をしてもいいくらい安心できた」(50代、女性)というように、看護婦の存在自体が患者の励みになっている場合がある。その他にも「看護婦、看護学校の生徒もみんな一生懸命で立派だと思う」(60代、男性)。「対応は良いし親切にしてくれる。ナ−スコ−ルで呼んでも、すぐに来てくれる」(80代、女性)。「どの人も良くやってくれる。良心的だった」(50代、女性)。「とても良い。親切である。いやな思いをしたことがない」(60代、男性)などの患者の喜びの声も多くを占めてい た。
 前述したとおり、患者からの意見の内容は不満ばかりではなかった。つまりごく一部の対応の悪い看護婦のせいで、不満を抱く患者が存在してしまうのではないだろうか。「国立病院では(規模が)大きすぎるから、末端まで徹底されないことが多い」(60代、男性)という言葉から解るように、完璧な患者サ−ビスがなされているのかという問題である。院内研修の機会を増やし、患者サ−ビスを改善していくことが、離反患者を無くす第一歩となりうるのである。
  ※2冠動脈シネアンギオグラフィ(虚血性心疾患において直接冠動脈を造影する検査法)を用いた検査。

 (5)理想的な病院を目指して


アリと体重減少

 病院には、とかく閉鎖的なイメ−ジがつきまとう。そういうイメ−ジを打破するには、透明感のある病院づくりを心掛けていくことが必要だと思う。それは、地域住民が安心して足を運べ、そして病院全体が見渡せるものでなければならない。人は未知のものに対して恐怖感を覚えやすい。その恐怖感を取り除くのは、分かりやすい細かい説明であったり、看護婦から掛けられる優しい言葉であったりするのだ。患者の生の声を裏切る事なく、改善していただけることを願うばかりだ。
 我々の調査したごく一部の患者の声の中に、これだけの思いが込められているのだ。これを少数意見だとは思わずに、患者の一丸の思いだということを理解してもらいたい。そして、それ� ��また地域のすべての人達の思いでもある。これから国立長野病院が地域に根差した病院になることを心から応援すると共に、益々発展していくことを祈っている。
                                                             (中村 敦)
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Y 職員に対する満足度

 検査技師・放射線技師に対する満足度

 検査技師の対応についての聞き取り調査の結果の中に、「 良くも悪くもない」 (60代、男性)や「具合の悪いところをわかってくれる」(60代、女性)、「検査技師の方は子供に優しく接してくれて、心電図やレントゲンを撮る際に『しっかりしている』と褒めてくれて安心できた」(幼児の母親)、「*1トロンボ検査技師は一声一声掛けてくれるので、患者としても安心できてよい」(60代、男性)、「手術前の様々な検査の時、検査技師は親切だった」(80代、女性)、トロンボ検査をしてくれる技師の対応は良くなった。昔はいつまで待たされるのかと心配するほど時間がかかったが、今はそれも改善されて良い」(50代、 女性) といった評価があった。これらの患者は検査技師に対して、「良い」、「普通」といった印象を持っている。たとえ簡単な検査であっても検査技師の心配りは大切で、それによって患者は安心して検査に臨むことができるのである。
 このような患者の不安をできるだけ和らげようとする検査技師がいる一方で、不満の声も出ている。たとえば、「子供がレントゲンを撮る際に『動かないように押さえてほしい』と言われレントゲン室の中に入ったが放射線を防ぐ服をレントゲン技師は着せてくれなかった。子供も喉を撮ったがやはり何も着せてもらえなかった。体全体に放射線を浴びる感じになっていたので、せめて生殖器の上に被せるぐらいはしてほしい」(30代、女性)、レントゲンを短期間で2回も撮ったことが心配」(60代、� ��性)といったレントゲンを撮る時の不安からくる不満がある。患者の多くは放射線についての知識があまり無いため、レントゲンを撮る時に放射線が人体に及ぼす影響をレントゲン技師が患者に少しでも説明することによって患者の不安を取り除くことができるのではないか。
 このような説明は、ほかの検査でも同様に必要である。「東長野病院の時は耳で採血してすぐ結果が出たが、長野病院では腕から採血して待たされる。より高度な結果が腕から採血すると出るらしいが、検査方法が違い詳しい内容はわからない」(50代、女性)ということも<時間がかかるが、耳よりも腕から採血することでここまで詳しい検査結果が出る>といった簡単な説明で患者は理解するはずであり、待たされることへの不満や病気に対する不安は� ��しは解消されるのではないか。

 受付職員に対する満足度

 受付に対して多くの患者は「きちんとしていて良い」、「良くも悪くもない」、「普通」という印象を持っていた。しかし、一部の患者からは「待ち時間が長く、受付の感じも悪い」(70代、 女性) 、「受付の患者への対応が悪い。診断書の作成が遅く(障害年金の手続きのために診断書が必要で、その提出期限が迫っていたため)『はやくしてください』と言っても早くしようという努力も見られず、責任感が無いと感じた」(60代、 女性) といった意見も出ている。
 これらは、国立病院という大きな病院であるために患者が多く待ち時間が長くなることも当然あるわけだが、その長い待ち時間に疲れてしまった患者に受付の対応が悪く映ってしまったのではないか。受付は患者と接する機会が多く大変ではあるが、やはり<今日は大変込んでいますので多少待っていただくことになります>というような患者への心配りをしっかりするべきである。
 どんなに医師や看護婦、施設等の質が高くても、最初の受付での対応で患者の病院への評価が決まってしまうこともある。つまり、患者は病院の評価を受付で出してしまう可能性すらあるということになる。

 薬剤師に対する満足度

 薬剤師に対しても「良い」、「普通」という意見が多かった。一方で「東� ��病院時代の薬剤師は説明もしてくれて良かったが、長野病院の薬剤師は威張っているように見えて良くない。(70代、女性)という意見も出ている。薬剤師も薬を患者に渡すだけでなく、コミニュケ−ションをとることも大事ではないだろうか。

 検査技師等の職員は医師や看護婦と比較して患者と接する機会が多いわけではない。そのため「検査をするわけではないのでよくわからない」(60代、 女性) 、「1回しか行ってないので関わりがなくよく知らない」(50代、 女性) といった意見もある。しかし、患者にとって病院内で接する以上は誰でも<病院の人>であり、接する機会の多少にかかわらず職員の行動が病院の評判に影響するかもしれない。
 今回の調査では多くの患者が「良い」、「普通」という評価を出してくれたが、「改善を望む」という声も出ている。病院が新しくなって患者も期待している。したがって、医師や看護婦と共に職員の地道な仕事が患者の満足を少しでも満たすものであってほしい。
                                        
*1トロンボ検査
 心臓に人工弁のついている人は、血液がきちんと流れるように、ワ−ハリンという薬を飲んでいる。その薬は人によって飲む量が違い、その量を決めるために採血して血液中 の濃度を測る検査。                                    四十物 豊

2 施設等にたいする満足度

(1)駐章場
「スペースが広く、誘導してくれるので、非常に助かる」(60代、女性)というような、意見が非常に多かった。少数ではあるが、「いつもいっぱいで駐車できない」(80代、女性)、「夏は、直射日光が強いので、車内が暑くなってしまうから、屋根を付けて欲しい」(90代、男性)、「案内板が見づらい」(50代、男性)、「駐車場までの距離が長くて冬は大変。車を待つところが寒いので、そこにも屋根を付けて欲しい」(90代、男性)といったものがあった。
広くなって良くなったという意見が多い反面、駐車料金にたいする不満は・非常に多かった。一番多く出た意見は、〈駐車料金を無料にすべきだ〉というようたものだった。その理由として挙げられた意見は、「小銭を用意するのが大変」(不明� �女性)、「病院はやむを得ず行くところなので少しでも早く帰りたいのに有料というのは、不満」(30代、'女性)、「カードを取ってハンコを貰ってまた入るのが面倒」(50代、女性)、「患者や見舞いの客にまで、お金を取るのはどうかと思う。人によっては、何度も、病院に出入りする人もいるろうから、大変な負担になると思う。これかちは、高齢社会なのだから高齢者の手助けをする為に」あちこち飛び回らなければならない人も増えるだろうから、そういう人への配慮をして欲しい」・・(50代、女性)というような意見があった。
調査に答えてくれた方々は、'駐車料金について、深く考えているらしく、中には有料になった理由から改善策までを意見してくれた方もいた。「有料になった原因は、近隣住民のマナーの問題で、病院 、患者、家族の問題ではない。有料にするより、この間題は、自治会や警察へ、依頼してみたらどうだろうか。
また、バス券みたいなものを作ったら良いのではないか」(40代、男性)。駐車料金の間題は、患者や家族にとっては、有料か無料かでは大きく違うということがこの調査から解かった。

(2)病室
ここでも〈きれいで良い〉といった意見が多く見られた。「お掃除の人がよく来てくれたので良かった。新しくなって4人部屋でトイレ付きになり、日当たりも良いため満足である。ベッドとペッドの間隔が広くなったので良かった」(50代、男性)、「新しかったこともあり、4人部屋でも落ち着けた。また、アットホームで良かった」(不明、女性)、「(東信病院の頃は6人都屋で汚く病院とは思えなかったが、)とてもきれい。特� �室を利用した。1人部屋であったが・それほど高くない。ホテルのようであった」(60代、男性〉。
その他に、〈空調〉、北の病棟と、南の病棟との〈温度差〉を指摘した意見も多く見られた。「部屋は広くて良かったが、北の病棟と、南の病棟とでは温度差がある。冬に南の都屋が30度近くなって夏のパジャマを着ていた」(60代、女性)、「冬は暑すぎることがあった。半袖姿の人もいたが外から来ると暑い」(50代、女性)、「夏に北の病棟に入院していて、そこは日当たりが良くなかった。また、夜になると冷房が切られ、窓も開けてはいけないのでとても暑かった。空調は部屋によって強さが変えられるが、使う時間は決まっているみたいで参った」(30代、女性)、「北側の病棟と、南側の病棟との温度差を踏まえた上で温度調節をやっ� ��欲しい。温度差が激しすぎる」(50代、男性)。その他、様々な不満、要望。ベランダの窓が、使いづらかった。高齢者が、勝手に出られないように配慮しているのかもしれないが」(50代、女性)、「小児科の付き添いベッドが簡易ベッドで寝ずらく、カーテン1枚で仕切られているので子供が1人でも泣き出したらみんなが泣き出して困った」(30代、女性)、「院内感染の問題もあるので、集中治療室以外にもクリーンルームが必要。資金問題はあるがお金をかければできること」(40代、男性)、「国立病院なのに個室の値段が高すぎる」(60代、女性)、「病室のドアが重い」(30代、女性)といった意見だった。患者の求めていることが病室の清潔さだけでは無いということが、ここからよく伺える。空調に関しては多くの患者から意見が拳げられて いるので、早急に解決する必要があるのではないだろうか。

(3) 待合室と持ち時聞
待ち時間に関する不満が多く見られた。「長い問ただひたすら待っているだけ。入院してみて医師の多忙さを知ってしょうがないと思ったが、何時に呼ぱれるかわからないのでトイレにも立てないし、予報があれば大分違うだろう」(50代、男性)、「待ち時間が長く、受付の感じも悪い」(70代、女性)、「待ち時間が不満。午前中に終われぱ文句はないが、午前7時頃について並んでも、予約優先で午後になってしまう。予約で入っていれば診てくれるが、『痛くなったら来てくれ』と言われ、予約ができない。予約優先で診ている為、初診の人は辛い」(90代、男性)、「待ち時間が長くて具合が悪くなる。予約システム(何時に行けぱいいのか)をしっかりして欲しい」(30代、女性)、「予約無しで行くと待たされることは承� ��しているのでそれなりの心構えで行く。待つことは慣れたし、ある程度はしょうがない」(60代、女性)というように多くの不満が挙げられた中、改善策まで意見してくれた方もいた。「予約は15分単位で設定していて、そこに緊急の患者が来れば予約の人は後回しにされ待たされることになる。よって、患者に情報を伝える必要がある。改善策として、各科インフォメーションセンターを設置して、予約以外の人など待合室にいる人には『・・・さんあと何分待ち』など表示して、家で待っている人はそこに電話して何時に行げば良いのか確認できるようなシステムにするのはどうか。改善策はいろいろあるだろう」(40代、男性)。」他の病院に見られるように患者にポケベルを持たせるなど、改善策はいくらでもあるだろうから、この問題� ��早急に改善する必要があるのではないだろうか。その他に、「中待合の標識が欲しい」(70代、男性)、「どこの病院でも言える事だが、待合室に畳を敷いた横になれる場所が欲しい」(70代、女性)という意見もあった。この2つも改善の余地があるのではないだろうか。意外にも、「予約制なのは良い。長く待っても30分」(40代、女性)というように良いと言っている人もいた。長い待ち時間への不満より、何時まで待つか解からないといった、長野病院の待ち時間システムに、患者は不満を抱いているのではないだろうか。

(4)レストラン
レストランは、「お値段まあまあ、見晴らしは良くていい」(不明、女性)、「見晴らしが良くていい」(40代、女性)、「値段が少し高めだが、美味しい」(50代、女性)というような、〈満足〉という意� ��が多く見られたが、営業時間についての不満も多くあった。「開いている時間が短い。日曜日に開いていないのも困る。日曜日は、お見舞いの人も多いし、体調が良くなれば、見舞い客と一緒に食べたいと思うので、メニューを少なくしたり、昼食時だけにして、働く人が少なくてすむようにしてでも開けて欲しい」(50代、女性)、「朝早くと夕方5時以降はやっていないので、付き添いの人は、近くのコンビニなどで買ってきて食べていたので不便」(不明、女性)というように、患者や、見舞い客の使いたいときに開いていないという点ではまだまだ改善の余地があるのではないだろうか。その他に、「レストランにもっと緑があってもいいと思う」(50代、男性)といった患者からの要望も見られた。

(5) エレベーター
エレベーターは、〈きれい〉という意見が、多く見られたが、〈小さい〉〈数が少ない〉といった意見も同様に多く見られた。「広くてきれいで良い」(60代、女性)、「きれいだが小さい(60代、女性)、「数が少ない」(30代、・女性)、「患者が使えるのが2機で少ない。お見舞いの客で混んでしまう」(不明、女性)。その他の意見として、〈能率の悪さ>を指摘したものが見られた。「エレペーターが少ない。自分が1階にいる時に2機とも上にあがっている時がある」(70代、女性)、「エレベーターの上下の行き来が不能率的であった。片方が上に行くと、もう片方も上に行ってしまう。下に行けばやはりもう片方も下に行く、ソフトの組替えが必要ではないか。小さいのも気になった」(50代、男性)。〈小さい、数が少ない〉とい った点はなかなか改善するのは難しいと思うが、〈能率の悪さ〉という点ではまだまだ改善の余地があるのではたいだろうか。

(6) テレビ
ここでは、料金の間題が一番多く挙げられた。カード料金は1000分(16時問40分)1000円であるが、「もう少し安ければ」(70代、男性)、「テレピがあって良いが、テレビカードは高い」(70代、女性)。このように使用料への不満はあるが、「プリペイドカードを買えばテレビが見られ、みんなが平等になりいいと思うが東信病院時代はテレビの無い人がいて、持っている人は気が引けた」(40代、男性)、「テレビは、1人1台になって良かった」(60代、女性)、「テレビがあると退屈しない。使用料も良いと思う」(80代、女性)。テレビが個人個人にあるというメリットのほうが、喜ばれているようだ。

(7) トイレ
<きれいで良い>という意見が非常に多かった。また各病室ごとに,トイレがあるというのも喜ばれていた。「きれいで良い」40代、女性など)、「各病室にトイレがあったので良かった」(50代、女性など)「ウォシュレットのトイレがあったので良かった」(不明、女性)。その他トイレの構造に関する不満がいくつか見られた。病室のトイレのドアがすごく重い、点滴を打っていたのでとても大変だった」(30代、女性)、「病室についているトイレのドアのつけ方が悪い。開く方向を逆にして欲しい」(50代、女性)「洋式のトイレの数は少ない。お年寄りは足腰が弱いため和式は使いづらい。洋式はいつも並んでいる状態。洋式トイレの数を増やして欲しい。リハビリ室の洋式トイレの方はカーテンなので問題。左半身が不自由なため トイレットペーパーが左側についているのは不便、中央につけて欲しい」(50代、女性)と、普段目に付かないところまで患者たちは、よく見ている。患者の視点に立ってこの問題は改善する必要があるのではないだろうか。

(8) 病院食
満足という意見が、多数あった。「食事は温かいものは温かく、冷たいものは冷たかったので良かった」(60代、女性など)、「盛り付けにむらがあったが美味しい」(不明、女性)・「東信病院時代は夕飯が5時頃で早く、夜になるとお腹が空いたという人が多かったが、長野病院になってからは6時半と改善されて良かった」(50代、男性)、「食事は良かった、栄養課の課長が食堂に来て食事についてどうかと聞いてくれたので良かった。10目ごとに献立表を貼ってくれたので、患者としては楽しみが増え� ��良かった」(60代、女性)。その反面、様々な不満も見られた。「病院食はまずいのが普通。・あきらめて食べていた」(70代、男性)、「食事の量は多かった。ワゴンから食事を出すときカードを見て各自出すのだが、カードには名前が小さい字で書かれている為、大変見づらい。字を大きくして欲しいと意見したが、後日掲示板にて病院側から拒否された」(50代・男性)、「病院食がよろしくない。栄養を付けなければならない患者にあの食事で良いのだろうか」(70代、女性)、「病院食がどうも…、知り合いがカップラーメンを食べていたりした。すべての食事が糖尿病食みたい」(60代、男性)、「食事は1歳の子供に大人と同じ物が出てきた。(ナスのおひたしがポンと。)小児用の食事を」(幼児の母)。食事に関しては、味の間題よりも、患者� ��年齢、病状などに応じて、食事を作り分け、もっと改善する必要があるのではないだろうか。

(9) その他
少数派の意見ではあるが、なかなか興味深い意見が多く挙げられた。〈良かった〉という意見は次のようなものだった。「床を歩く音が、東信病院時はパタパタうるさかったが、しなくなったので良かった」(60代、女性)、「東信時より病院内の照明が明るくなって良かった」(40代、男性)、「お風呂はきれいで良かった」(80代、女性)。東信病院時の方が良かったという意見も挙げられた。「売店は昔のほうが良かった。スペースも狭くなったし入院患者に必要な寝間着や下着が少なくなった。もう少し品揃えを良くして欲しい。ホールはよく患者さん同士で話をするために使っていたが、もっと腰掛ける場所が欲しい」(50代� �男性)。このように『昔のほうが良かった』という意見が出てしまっては改善せざるをえないのではないだろうか。「病院から遺体を運び出すのに、特定の業者(葬儀屋)しか出入りできないのはおかしい」(不明、女性)といった難しい意見もあった。〈良くない〉という意見では次のようなものが挙げられた。「駐車場が狭い。自転車が置けないときがある」(40代、女性)、「車を待っているところが寒い。渡り廊下が長すぎる。中庭はいらない」(90代、男性)、「外来者用の投書箱は設置場所が良くない。職員の目の前では書きづらい。喫煙所のあたりは少し汚い。傘立てが少ない。常時置かなくても、雨が降った時だけでも対応して欲しい。今は狭い所にいっぱいになっている。診察室のドアがとても重い。外に声が漏れないようにしてい� �のだろうが、お年寄りや車椅子の人はなかなかドアを開けられずに苦労しているので工夫したほうがいい」(60代、女性)、「日曜日は掃除の人がいない。一番、お見舞いの人が来る日なので、できればいて欲しい」(50代、女性)、「点字がないので目の不自由な人への案内が不充分」・、(50代、・女性)。<点字>'<掃除の人>・<重たいドア><傘立て><駐輸場>、どの意見も改善の余地があるのではないだろうか。
施設の溝雇度は、新しいということもあり基本酌には<満足>というものが多かった。
また、意見を見てもらえば解かるとおり患者さん達は、東信病院時代と比較して答える傾向が強かった。その為施設が、前よりも良くなったか悪くなったかというような話に固執しがちになってしまった。施設に関しては、他の問題と違い、改善� ��や対策を立てやすいと思うので是非できることから良くしていって欲しい。客観的にここで書かれた意見を読むと、腹立たしいしいほど患者がわがままを言っていると感じるかもしれないが、患者の立場から問題を受け止めようとすれば必ずしも単なるわがままではないことに気付く。患者あっての病院、患者の意見をうまく取入れながら、長野病院が良くなっていくことを望みたい。(四十物豊・.石川晋一郎)

Z.病院側のさまざまな試み

@意見箱、投書に対する回答
 病院という場所は通常、患者側からのアプローチは簡単ではない。患者は病気という強いストレスに晒され、一般に体力や気力は低下し、また治療や看護をしてもらっているという負い目がある事も、その理由の一つである。しかし、これまで のような受身の診療態勢が見直され、患者側もほかのサービス産業と何ら変る事が無い、こちらが選ぶ権利を持っているのだという事を発見した事により、病院側でもそれに対応せざるを得ない状況になってきている。そんな背景のもと、国立長野病院では、患者さんや見舞い客などからの意見を聞いてよりよい病院づくりに生かそうと、受付の近くや入院患者用の食堂をはじめとして各フロアにひとつずつ、全部で6個の意見箱が設置されている。いまではどこの病院でもやっているようであり、独自性のあるものではないが、国立長野病院になった1997年7月1日にはすでに設置されていたという。そしてこれの設置については患者側からの要望ではなく、病院側が自主的に設置したという事を付け加えておく。患者の意見を可能な範囲で� ��り上げ実行していくという事も、広い意味での"患者満足度"を満たす事に繋がっていくのではないだろうか。
 しかし不思議に感じるのは、意見箱の投書によって実現したものもいくつかあるのだが、それによって投書の数が増えないという事である。目立った改善点としては、駐車場の利用料金が低額になったこと、外来患者が薬を飲む際に便宜を図る為に水飲み場が備え付けられたこと、バス停に風除けがつけられたこと、病院内にキャッシュコーナーが設置されたこと、電話の設置場所を分かりやすいところに移動したこと、さらにコインロッカーを備え付けたことなどもすべて投書による意見によって実現されたものだ。患者側の意見が聞き入れられて病院がよくなったことを知れば、「それでは私も意見をしてみよう」と 考えてほかの患者さんもどんどん意見箱を利用する事になりそうなものである。たしかに開院当初は年に300件ぐらいの投書があったそうだが、現在では月に数件しか利用が無いということである。これは何を意味するのだろうか。おそらく、当初さまざまな不備、不満があったことが、病院側が対応して改善されてきた結果であろう。しかしそれだけであろうか。繰り返し意見を出しても改善されないまま、諦めてしまった人も、なかにはいるのではないだろうか。
 この意見箱に寄せられた投書は、開院した頃は数が多いにもかかわらず記名者には直接手紙で返答をしていたようだ。現在では玄関に掲示したり、広報誌などに載せてその対応をしているという。中には意味の通らない意見もあるということで、このような意見を聞い� �限りにおいては、十分に意見箱を活用できていないのではないだろうか。こういった施設・環境があるのだから、積極的に利用していかない手は無い。「市民の要望によって出来た病院だから大切にしたい」(70代、男性)という意見もあるように市民の期待は大きい。それに比例するかたちで意見、要望もたくさんあるはずである。それらがうまく病院側に伝わる為の努力や工夫が、患者側と病院側双方に必要なのではないだろうか。
 
Aクリティカル・パス
 "クリティカル・パス"という言葉を聞いた事があるだろうか。ここ最近、医療の世界が注目しているシステムである。"入院指導・検査・食事指導・安静度・理学療法・退院指導などの予定を、時間軸を横軸、ケア内容を縦軸にして、スケジュール表のようにまとめ たもの"である。入院後何日目には、何をどの程度行わなければならないかを誰が見ても明確になるように、通常一枚から二枚のシートで構成されている。これによって病院側に役に立つ事は勿論、患者側にも大変有用であり、評判も上々のようだ。自分が何の疾病で入院し、どのような治療・検査をしてどのくらいの期間で退院できるということが事前にわかっていれば、大変に心強いものである。このクリティカル・パスが広く利用されるようになった背景にはDRG−PPSという制度が絡んでくる(注)。


 クリティカル・パスを作成する上で構成される基本要素は4つある。すなわち、時間軸、ケア介入、標準化、ヴァリアンス(variance:変化要因)である。時間軸とケア介入の図示を行って、次に標準化を進める。これはクリティカル・パスを導入していく為に構成された特別チーム、委員会でどのように疾患の医療ケアがなされるべきかを話し合う中で作られていく。といっても、この標準化は一度決められたからといって固定されるものではなく、常に話し合われて変更されていく。重要な事は、標準化と画一化とをくれぐれも混同しないよう留意する事である。
 ヴァリアンスは逸脱とか変化要因と訳される。すなわち、標準化されたクリティカル・パスから逸脱したケア介入、時間� �からの変化である。このヴァリアンスも完全にゼロにする事が目的とはならない。むしろ、その記録からなぜその変化が生じたのかを検討し、次のケアへの参考、、あるいはクリティカル・パスの妥当性の検証に役立てる為に使われる。
 このようなクリティカル・パスを、国立長野病院では開院の年の終わりに考案を出し、翌年の中ごろから利用が開始されている。これは県内では始めての試みであり、現段階では10種類のクリティカル・パスが利用されている。その多くは性質上有利である心臓血管外科での利用となるが、それでもまだ40例にとどまっている。とはいえ、これからの医療界において必ずや広まっていくものであるから、始まったばかりという事を考慮するとそう悲観するものではない。また、実際に利用した患者か らは好評だったという。
 一方、病院側から見たクリティカル・パスは、患者に対してのインフォームド・コンセントに利用できる事は勿論、経営のツールとしての魅力を感じているようだ。
 そもそもクリティカル・パスの基本概念は、1950年代末の軍事産業での工程管理に発端を持ち、その後、産業界のオペレーションリサーチという分野で、さまざまな職種、人材が関与する大掛かりな仕事を円滑に、かつ効率的に遂行する為の計画作りとして発展してきた手法である。この考えをアメリカの医療界が取り入れて利用する事になったものが、現在の日本の医療界に入ってきたもののはじまりである。アメリカでのクリティカル・パスの普及にもDRG−PPSの導入がもたらした影響がかなり大きいようだ。出来高払いから定� �化された診療報酬支払いにおいて、患者を的確にグループ化し、合併症無く、患者を早期に退院させることが病院にとって、明確なインセンティブになったことがその推進力となった。漫然とした在院日数の長期化は、明らかな病院の損失となったからである。

 (注)DRG−PPS(Diagnosis Related Group + Prospective Payment System)
 DRGとは、疾患別関連群と訳される。病名を、マンパワーや医療品、入院日数や    入院費などの医療資源の必要度から、統計上意味のある診断名グループに整理する事を     言う。
 PPSとは包括支払い方式と訳されている。これまでのような、疾患の診断や治療に対して、一つ一つの行為や方法(検査や処置・手術・治療・看護)全てに対して診療費が支払われる「出来高方式」の支払いとは異なり、一定の診断名や状態に対してひとまとまりの医療行為として一定の診療費が支払われる事を言う。つまりDRG−PPSとは、疾患別の治療費を浮き彫りにする事である。
 以前の医療費というのは、もちろん行政側の制限や医療側のモラルによって基本的には良心的な価格に近いものだったが、提供する側、診療担当の医師に殆ど任されていたようなかたちで、出来高として決定されていた状態であった。医療の絶対量が不足していた時代、特に急性疾患に対しての適切で迅速な医療が必要であり、このよ うなかたちにならざるを得なかったという背景がある。しかし、医療費の増加(高齢化による医療費増大、及び疾病の慢性化など)によって、このような値段のつけ方に限界がおとずれた。そこで病気に対して医療担当行政があらかじめ「値段」をつけてしまおうという事になったのである。

参考文献
    長谷川俊彦・武藤正樹「クリティカルパスと医療の標準化」
    長谷川俊彦「クリティカルパスは経営者主導で行うべき経営ツール」
    濃沼信夫「院内患者投書箱活用による患者サービスの向上に関する一考察」
         『図解 患者サービス読本』(1991年6月)

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[. 調査結果にたいする病院側の意見

@病院側の意見・返答
これまでの調� ��結果を昨年12月16目(木)に長野病院で報告し、これに対する返答、今後の対策を病院側から聞き取った。その席には、病院側から長田院長、武藤副院長ら10名、ゼミから12名が出席し、意見を交換した。
調査結果をうけて、「予想していたことが多い」と、長田院長は感想を述ぺた。続いて、〈医師や看護婦で、サービスの質を悪くしている者がいる〉といった、患者サービスの問題では、「医師・看護婦ともに、性格や人間性などの問題もあるが、主として意識の問題。病院の理念に、サービスの徹底という目標は掲げているが、長期での改革が必要になってくる」と返答した。
次に医師の間題では、〈入れ替えがおおい。ローテーションで若い医師が短期間で異動することカが不安だ〉のような意見があった。これについて、院長 は、「現在、医長クラスの医師以外は、1年か2年で異動して代わってしまう。現場での実践的な経験で技術を養うことも重要になってくる。人手も不足しているし、どうしても若い医師を起用することになる。患者側からすれぱ不安はぬぐいきれないかもしれないが、その際には、ベテランの医師が、なんらかのフォローをしていくことで、理解をしてもらいたい」と答えた。
最後に、「診療科を記述すると、一部医師の名前が特定できてしまう可能性がある。できれぱ診療料を匿名にできないものか」と病院側から意見があった。これについて、その後、長島専門ゼミ全員で検討した。その結果、『匿名になると事実関係が暖味になり、ノンフィクション性が薄れてしまう。病院で起こった事を隠さず伝えたい』と考え、今回は診療科 を掲載することになった。

A人手不足について
調査のなかで、〈医師・看護婦の人数が足りたいのではないか〉という声が多かった。
確かに、現在の数では患者一人あたりにかける時間が少なくなる。しかし、この問題は、病院側が改善の努力をするだけでは解決しないのではないだろうか。増えつづける患者に比例して、職員をおなじく増員することはそう簡単にはできない相談だからである。
現在、国立長野病院は、医師45名、看護婦204名他、計350名で構成されている。この人数は、1日に訪れる外来患者500人程度に対応できる数と厚生省が設定している。だが、「実際には、700人を越え、800人に迫る勢いで患者は増え続けている。このような状況のなか、医師は、診療科によっては、1日かなりの数の外来患者を診察し、� ��当の入院患者の回診、手術や救急外来などをこなしている。それだけではなく、夜間当直の日には、そのまま朝の外来を診る場合もある。その点も、充分に理解していただきたい」との回答が、病院側からよせられた。したがって、このまま患者が増え続けることになれぱ、患者ひとりひとりにかけられる時間はますます少なくなるだろう。
看護婦も、一人あたりの仕事量がおおくなる。入院患者2.5人にたいして看護婦が1人という基準がある。もともとこの基準でも人手は不足している状態に、仕事が増える。患者さんと接する時間が少なくなる。そんな姿を見ていると、事務的なことだけをこなす機械のように冷たい看護婦に映ってしまう。報告書のX.にあるように、患者は看護婦に体のケアだけではなく、心のケアも望んでいる。
しかし、患者の増加が人手不足を招き・人手不足が看護婦の仕事をふやし、多量の仕事が、患者と看護婦との距離を離している。これでは患者サービスの低下を引き起こす原因に患者自身がなってるのではないか。もちろん、患者が全て悪い訳ではない。病院がサービスの向上を考えるのと同時に、患者側も病院の利用方法を考える時期ではないか。

B地域における国立長野病院
国立長野病院に対する患者や地域の人々の期待度は、予想以上に大きい。病院側も患者サービスを徹底し、より良き病院にしたいと考えている。しかし、患者が増えすぎているのも否定できない。今いちど、患者は病院の選択を考え直す必要があるのではないか。診療料が複数あり、設備が整っている病院は安心できる。ただ長野病院には、『がん冶� ��の中核施設として、高度かつ集学的な医療を行う』(p.10参照)などの診療機能の趣旨が掲げられている。つまり、程度の軽い病気で押しかける人が多いと、真にこの病院を必要としている患者に充分な治療を行うことができなくなる。もちろん待ち時間も、今よりさらに長くなってしまう。
「今、病院は定数に基づいた運営をおこなっている。この基準はすぐに変更できるものではない」、病院側はこう回答している。だが、この病院を利用する地域の人々としては、ひとりでも多くの人達がこの国立長野病院に通いたいと願っている。この意見にたいして、少しずつではあるが、医師・看護婦などの増員を図っている。このほかにもさまざまな対策をたてている。ただ、患者側にも、考えてもらいたい事もある。病院に直接来るのでは なく、町医者などに行き、さらに詳細な検査や、治療・入院が必要な時、この長野病院に来ていただきたい。スムーズな病院運営をめざすために、このような過程を経て来ていただきたい。病院側はこう考えている。
与えられた定数での病院運営と、地域が求める医療機関にはおおきな差があるかもしれない。このようななかで、おたがいの主張をだしあう。病院に要望すると同時に、この僅かな病院側の訴えを、私たち利用者も考えていくことが必要ではないだろうか。
(木田穣二)

¥ 残された課題と改善策

これまで病院に対するさまざまな意見が挙げられた。これらの意見を踏まえ、これから長野病院はどのように対応していけばいいのか、他の病院との試みと、残された課題を検討していきたい。

1 不満が出にくい医療サ−ビスの特殊性
東信病院時代にも利用した人や他の病院に通院したことのある人は、病院を評価するとき、「東信病院の時よりも、長野病院になってからのほうが対応がスム−ズになった」(50代、女性)「東信病院の時より専門医が増えていい」(70代、男性)や「長野病院には他にはない技術と優しい気持ちを持った病院である」(60代、男性)「長野病院の検査技師のほうが信大病院より良かった」(50代、女性)と長野病院を高く評価する人がいた。他方、東信病院と比べても同じ」(60代、男性)や、「篠ノ井の厚生連の受付は、患者を客としてみてくれた」(50代、男性)「設備は信大病院のほうがいい」(30代、女性)、マイナス面を挙げる人もいる。このように他の病院と比べることでさまざまな評価 が見られた。
一方、「他の病院に行ったことがないのでよく分からない」(60代、女性)というように、他の病院をよく知らず、比べる経験のない人にとって病院の評価は困難だし、医療サ−ビスは素人には評価が難しいものである。食事は「温かいものは温かく、冷たいものは冷たくでてきて良かった」(50代、男性)、「洋式トイレの数が少ない」(50代、女性)など、ホテルやレストランを評価するのと同じ感覚で評価しうるものに関しては意見が出やすい。投書箱への投書内容も「駐車場の料金が高すぎる」(50代、男性)バスの待合い場は冬は風が通り寒いので囲いを付けてほしい」(50代、女性)(いずれも改善された)とか、「待ち時間が長い」(50代、女性)というように施設やシステムについての投書が多かった。
し かし、「投書したが、やはり他の患者さんに見られるのは嫌だった」(70代、女性)という人もいる。病院に対して患者は"診てもらうのだから"遠慮や恐れがある。医者の前では患者は弱い立場である。施設に対して不満は出せても、医者に対しては今後の治療に影響するのではないかと心配するところだ。医療サ−ビスはこのような遠慮と、比較困難という特殊性を持つために、不満の出現率が高いのである。今後の不満の声をどう拾うかというのが課題になる。 有効な手段として意見箱があり、長野病院でも設置しているが、岡山中央病院でも「聞聞ボックス」と名付けられた意見箱を設置している。寄せられた患者の声は、担当部署の責任者の実名で回答と併せて全て掲示されている。興味深いことに、この取り組みを初めてから、苦情よりも感謝の声が増えたという。患者からの指摘を担当者が実名で回答し掲示することは、病院が患者に掲げたいわば公約で、実行せざるを得ない。結果として提供されるサ−ビスの質は向上していくのだ。
不満は感じても、それを苦情として出さなかった患者の再利用意欲は、苦情を訴えたものよりかなり低い。意見箱のような苦情をくみ上げるシステムは重要である。患者に指摘された点を改善し、質を上げることで既存の患者の満足度も上がり再利用� �欲も高まる。さらに不満の声を拾うには、意見が言いやすい雰囲気を作るために、意見箱の設置場所を工夫したり、意見箱自信を活気づけることが必要だ。また、医師を含め職員に対しての意見をもっと聞き取るシステムが求められる。そのためには患者が弱い立場であることを感じさせない姿勢を職員が心掛けてほしい。

2 看護婦は忙しいけれど・・・
「看護婦は忙しすぎる」(40代、男性)という意見が多かった。「忙しいときは用事をつい遠慮してしまう」(30代、女性)人は多いようだ。その要因として「看護婦が足りない」(50代、男性)ということが挙げられよう。「しかし忙しいから仕方ない」(40代、女性)と感じたまま退院してしまうのでは、病院に対して良くない印象が残ることになる。
国立熊本病院、整形外科病棟では「お元気ですかハガキ作戦」を実施している。この作戦とは、患者の退院後、いかがですかという内容のハガキを受け持ち看護婦が直筆で書いて送ると言うもの。入退院が激しいこの病棟では「看護婦とゆっくり関われなかったり、看護婦がバタバタしていたという印象を与えてほしくなかった、というお詫びの気持� ��と、その後の様子を伺うという気持ちを込めて送っている。」(看護婦長)という。
この取り組みに対する反響は予想以上に大きく、お返しの手紙が送られてきたり、外来を受診した帰りに看護婦を訪ねて病棟に来てくれたりと、ハガキを介した新しいコミュニケ−ションが生まれている。また、患者満足のための取り組みのつもりが、受け持ち看護婦制の充実という思わぬ効果を招いた。退院してからも自分の受け持ち患者なんだという責任感や、できる限り関わってその患者とのエピソ−ドをハガキに書こうという思いが、受け持ち看護婦制の意識付けにも役立ったのだ。

3 病院の演出
「小児科で病気じゃないほうの子供も診察室に連れてくると、2人が泣くので先生の話に集中できない」という意見のように、子供にとって病院は異空間であり、白衣を着た医者の何をされるのだろうかと、恐怖心でいっぱいの場所だ。お母さんにとっても、子供を連れていくことは大変なことだ。
しかし、「病気になったら病院に行ける」と子供が喜ぶ病院もある。そこはプ−子供クリニック(静岡県・浜松)で、院長は手品をしながらの診察で、子供にも親にも大人気である。院長は「子供が診察の時に泣くのは、痛いからではなく恐怖心からで、手品を見せることでこの医者は恐くないんだと思わせることができる。手品の道具を渡しておくと子供はそちらに夢中で静かになるから、その間に母親と話をしたり診察 ができる」と話す。クリニックの待合室にはトリックが施してあるから、なかなか帰ろうとしない子供も大勢いるという。
不安を胸に病院の門を叩くのは子供だけではない。大人だってどんな病気なのか、なんと言われるのか、不安でいっぱいだ。入院患者257名に行なったアンケ−トによると、約8割の患者が安心と思えるような迎え方をされたと答えている。一方で21にん(8%)の患者が不安な気持ちで入院生活を始めている。外来で入院の旨を伝えられた患者の場合、どのようなプロセスを経て、入院するのだろうか。誰からどのような情報をどのように得ているのだろうか。そして何を不安に感じているのか。どこでどのような状況を提供されれば患者の不安は解消されるのかを、患者の立場になって考えていく必要がある。
医療従事者にとっての病院は職場であり日常的な空間だが、患者にとっての病院は極めて非日常得的空間だ。患者の認識する非日常的空間を、どう工夫すればリラックスできる空間に変えることができるのかを職員は常に考える必要がある。
白衣の与える印象について考え、取り組んでいる病院がある。ソウルにある山星医療医の小児科病棟では、看護婦と子供のパジャマの柄が同じである。また、オハイオ州立大学病院に入院している患者は、病棟ナ−スの制服のズボンと同じ赤紫のガウンを羽織っている。患者はより一層の親しみを覚えるため精神的にも安定するし、一緒に治していきましょうという、患者と職員の一体感が治療過程において重要な役割を果たしている。
また、医者に対して「患者は、メンタル的なケアも大� ��な役割で求めている」(60代、女性)。「病気の者はただでさえ不安なのに先生の対応でますます不安になる」(50代、女性)こともある。同じ手術をするのでも、患者に対する恐怖や不安をどこまで緩和できるかというのが今後求められる医療サ−ビスである。ある患者は、「手術代の上に寝かされ、とても緊張し、異様な光景に恐怖を感じた。マスクなどをしている医師は誰なのかも分からず、主治医も分からないほどだった。しかし、手術の前に廃止が自己紹介をしてくれた。また、冗談なども医って笑わせてくれたので緊張もほぐれてリラックスできた」(60代、男性)と話している。
これからは医師の対応の仕方も含め、職員が"病院を演出する"という発想が重要である。その演出とは、あなたのことを私たちは大切に思っ ていますよ。安心してもらって大丈夫ですよ、というメッセ−ジを伝えることである。患者の視点に立って、いつ、どこで、何をしてもらうと安心し、信頼感を抱くのかと言うことを常に考えてほしい。患者の言葉一つ、看護婦の気遣い一つで患者は安心し、不安にもなるのである。

4 離反患者をどうするか
患者一人一人との関係づくりをしていく上で注目していかなければいけないのは、離反患者の存在である。手術をキャンセルしたある患者は、「本当に手術をしなくてはいけないのかどうかを聞くために他の病院に行ったら、その先生がとても丁寧に説明してくれた。この先生なら安心して任せられると思い、その病院で手術を受けた」という。手術の必要性を納得させることができなった医師に身体を預けなかったのである。
今回私たちの調査は、病院から出された手術キャンセル患者のデ−タをもとに実施した。そのデ−タは、各科のカレンダ−や手術台帳に手書きで書かれている手術予定者のうち実施した患者に破線が引いてるので、線が引かれていない患者を離反患者とみなし、情報収集するしか離反 患者を探す方法はなかった。こうした状況からも病院も離反患者に対してはほぼ無関心であると言わざるをえない。毎日の業務をこなすのに精一杯で、離反した患者のことまで気にかけている時間が無いのが現状だろう。しかし手術キャンセル患者は離反患者全体の一部である。継続受診するように勧められたのに途中から来診しなくなった患者なども考えられる。病院としては手術キャンセルは検査枠に無駄が出たり、手術代の未収入で直接的な損失もあるが、離反患者全体で考え、「生涯顧客」と捉えた場合の潜在的な損失を計算すると無視できない額になるのではないか。しかしそれ以上に重視してもらいたいのが、なぜ患者はその病院を離れたかということだ。私たちは調査を行なう中で、何人かの離反患者に会い、彼らの声を直� ��聞き、患者の立場の弱さを痛感した。その数は全体に比べればわずかかもしれないが、病院に不満を抱いたのは事実である。
将来的には離反患者を視野に入れたコンピュ−タ−システムの導入が望まれるが、まずは病棟単位、各科単位で離反患者の把握フォロ−をしていき、どこに不満があり離反していったのかを積極的に調べる必要がある。病院が離反患者に関心を示すと言うことで、患者は「この病院は患者を大事にみている」と感じるのではないか。
医真会八尾総合病院(大阪府)では11の検査においてキャンセル患者のデ−タをとっている。その結果、以前は「連絡せずに来院せず」という患者がキャンセル患者の20%を占めていたが、連絡をしてほしい旨を繰り返し説明することによって無断キャンセルは11%にまで減少� ��たなど効果を上げているという。

5 医者ニ−ズの変化
医療において、かつては緊急性を疾病が多かったが、医学の進歩などによって急性疾患から慢性疾患へという疾病構造の変化により、医療のニ−ズも多様化した。慢性疾患の患者は、時間的余裕があるため、いくつかの病院を回ってその中から納得の行く病院を選んで治療を受けるということが可能になった。ある調査によると、同一の症状や病気で複数の医療機関を受診した経験を持つ人は全体の4分の1を占める。"この先生とこの病院で共に治していきたい"と思わせるような深い信頼関係を作り、継続的に受診してもらうことが必要である。
よって離反患者の出現を防ぐと共に、「医者の入れ代わりが激しいので困る」(70代、男性)といった患者の声に病院は答えていくべきではないか。患者が病院を選� ��ときの基準として、医者は大きな割合を占める。しかし「医者がくるくる変わるのは問題」(60代、女性)である。「そういう面では町医者のほうがいいかもしれない」(90代、男性)と話す人もいる。しかし「自分の病気は最期まで見てもらうつもりだ」(60代、女性)と地域の国立病院に期待している人は多い。そのため、引き継ぎ上手であることだけではなく、医療側に都合の良いシステムを転換させ、患者サ−ビスを重視した態勢が望まれる。そうすることが結局、病院にとっては顧客を確保することになり、双方にとって望ましいことになるのではないか。

6 地域に根付く病院として
オハイオ州のリバ−サイドホスピスでは「地域社会教育」として、次のようなセミナ−を無料で開催している。「悲しみをどう受け入れるかのセミナ−」「エイズで愛する人を亡くした人へのセミナ−」「パ−トナ−を亡くした人へのセミナ−」「家族を無くした後の休日の過ごし方」「兄弟・家族を無くした子供へのセミナ−」である。また、患者の死後13カ月は家族とのコンタクトを取っており、手紙や電話、時にはボランティアが直接訪問することもある。
長野病院でも、病院主催の勉強会を行なっていて、「『透析の会』『糖尿病の会』等、病院だけではなく地域の人を交えて行なうのはとても嬉しい」(60代、女性)という反響がある。「地域の病院として期待している」(60代、女性)という人は 本当に多かった。是非、この地域の人々に応えた病院であってほしい。

参考文献
山崎泰広・和田ちひろ「ソフト面から考える患者のQOL向上法」
和田ちひろ「患者満足の落とし穴とを何か?」
和田ちひろ「医療界へのリレ−ションマップ・マ−ケティング応用のススメ」
第11巻第5号
和田ちひろ「離反患者ゼロの病院戦略」『月刊JAMIC JOUNAL』1999.11
和田ちひろ「こんな病院あったらいいな」                                            (島田聡子)

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まとめ

医者と患者の関係について −患者の立場の弱さを考える−


私達は、日常生活の自らの健康において、なんら意識することは少ない。だが人は病気になって始めて、身体の存在を自覚しないままに生きていたかを自覚させられる。そしていったん患者になると、その途端にそれまで当然と思われていた生活が、いささかなりとも障害されている感を抱かせられる。このような意味で、患者は本来あるべき自分の人生を、十分生きえていないという意識に陥りやすい。そして特に、周りの健康な人々と自らを比較したとき、その思いは強くなる。この思いは、患者に弱者の存在感を体験させることになる。
こうした状況の中で、医者は患者の前に現れる。これから自分を解放してくれるであろう医者は、患者にとって何か頼もしく、一段違った優位な� �在として映る。場合によっては、医者だけでなく看護婦に対しても、常時みられない特別な感情を抱く場合もある。
この「お医者さんと患者」の関係においては、出会いの段階からすでに医者の立場の優位、という点はいつの時代も揺るぎないものである。「患者とお医者さん」ではなく、「お医者さんと患者」と書くあたりにも、我々の潜在的な上下関係が示されているのかも知れない。
なぜ、医者と患者における関係において、このような一方的な力の差が生じるのであろうか。例えば、アスリ−トとコ−チとの関係を考えてみましょう。
「このトレ−ニングをこなすことで、あなたの能力は数段向上します。」といわれて、自分の今まで積み上げてきた経験・努力・地位を賭けてまで、全てをそのコ−チに委ねることがで きるでしょうか。「お任せします。」といって、コ−チに一日のプログラム、それこそ食事のメニュ−までも一任してしまうでしょうか。疑問を投げかけたり、他のコ−チやスタッフに相談したりしたからといって、もう面倒を見てくれないと心配してトレ−ニングに励むでしょうか。その場合、必ずコ−チングスタッフとの間では、ミ−ティングがあってしかるべきです。そこには、やらされているという意識ではなく、自らが進んで取り組む姿勢が、アスリ−トのモチベ−ションを高めていき、ベストパフォ−マンスに結びつくことを知っているからに他ありません。
これだけ資本である肉体に気を使うアスリ−ト達が、なぜ自分のからだ・自分の命について、医者との間においては黙っていられるものであるのか不思議です。「� �スを入れてしまう方がよい」といわれて、拒否したアスリ−トの話しなど聞いたことがありません。信頼度が高いと言ってしまえばそれまでですが、大変興味深い問題であると思います。
このような医者と患者の関係が、常に保たれているのは、患者の医療に対する専門知識の未熟さだけが問題ではなく、そこには、医者に対してある種の畏れを患者が抱いているからだと思われる。医療の現場においては、「お医者さま」の言うことを聞き、与えられた薬を飲み、それをありがたく思うのが患者の立場である、という形ができあがってしまっているため、「お医者様」に対して質問や意見をするのは、大変畏れ多いことで、もし文句を言って嫌われでもしたら、その病院には二度と足を踏み入れられない、診察してもらえない・・・� ��そんな絶大な権威を医師は持っていると、患者は考えてしまうものです。
このような、力関係に劣る患者には当然のように不安・いらだちが募るわけで、これをうまくインフォ−ムドコンセントによって、うまく取り除くことのできる病院(医者)は良とされ、できないようであれば巷の噂となり、患者の足が遠のく結果となり、通っている患者の離反にもつながりかねない問題へと発展するだろう。

しかしながらインフォ−ムドコンセントを、病院側が徹底していくことの難しさ・厳しさを患者側も理解していかなければいけない、ということも知っておかなければなりません。総合病院においては、一日に訪れる患者数がとても多いため、長い待ち時間の割には短い診療、というケ−スはやむを得ないのが現状です。その中� �、患者への信頼を築き、十分な説明を与えると言うのは、医者が精一杯行ったものであったとしても患者側からすれば、少し物足りないものであるでしょう。医者と言えども同じ人間であり、我々と同じく生活があり、常に感情を一定に保つことも、体調を維持することも到底成しえないことである。だからといって患者の心のケアに対する優しさ・気遣いをおろそかにしていいものとは考えないが、情状の余地を挟む気持ちが患者側にあっても良いのではなかろうか。いずれにせよ、病院側の人手不足というテ−マが揺るぎないものであるだけに、お互いの相互理解をどこまで突き詰めることができるかが、インフォ−ムドコンセントを患者に気持ち良く受け入れてもらう為の鍵となるだろう。
これまで述べてきた医者と患者の関係� ��ら、患者の心理面での立場の弱さが少しは分かっていただけたと思います。我々がこの調査を行うにあたっても、「立場の弱さ」からであろうか、病院からの依頼を受けての調査であることを説明すると、大胆な発言を避ける人や、今後の治療になんらかの支障が生じるのではと心配して、調査を断る患者さんもいて、私達自身聞き取り調査に少し困惑する場面もあった。その調査の中にあって、国立長野病院が地域に根差す総合病院として、良くなってほしいと切に願う住民が、多くいることに気づかされた。多くの期待と関心を寄せている住民と、その住民のニ−ズにどれだけ応えていけるかという病院との間にあって、医者はやはり大きな存在となっている。そのため医療は、人の治療が主体であるがそれだけであってはならない� �云うことを、医者は強く心にとめておいてもらいたい。
患者には、治療・心のケア・再発予防、住民には何より病気・怪我の予防を、医者が地域住民に働きかけることが大切である。病気が重くなって、それを難しい手術や治療法で治してもらうことは、もちろんありがたいことであるが、しかしそれ以上に病気を重くしないようにしてくれる努力は、住民にとってもっとありがたいはずである。医療も大切であるが、予防を中心とする活動をもっと地域に働きかけ、活発なものにしていくことも地域に根差す総合病院として踏み出す、具体的な第一歩の一つではないだろうか。
医学の父と言われているヒポクラテスは、「ドクタ−」という英語とラテン語の「ティ−チャ−」は同じ意味であることを述べたうえで、「患者に教え� �のが医者だ。」といっています。すぐ注射をしたり薬を与えるのではなく、まず病気になった原因を説明し、その原因を取り去る工夫を患者自身に教えるのが医者であり、そのために医者は「教育者」でなくてはならないと思います。
患者と医者の双方の主張する正しい二つの道が、やがて一つの道に通じるものであるものと信じ、医学という教育を通して、地域医療がより住民の近くに感じられるものになれるよう期待する。

この調査報告書は、「職員の満足度調査」を盛り込むことができないなど、不足な点も多く、ごく一部の意見しか取り扱っていないため総括したものとして判断するには不十分なものである。しかしここには確かな事実があります。
この結果を、今後国立長野病院の改善の参考としてお取り扱いいた� ��ければ幸いです。

                                                                         濱川 平

本来ならば、調査にご協力いただいた皆様の全てのお名前を上げて、謝意を表すべきところでありますが、患者のプライバシ−保護のため協力者一覧は省かせていただきます。
お仕事ご都合がありながら貴重なご意見をいただくと共に、時間とお手間をとってくださった全ての皆様に厚く御礼申し上げます。
ありがとうございました。

長島専門ゼミナ−ル一同

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